神東塗料(4615) – 当社製の一部製品に係る不適切行為に関する調査報告書公表のお知らせ

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開示日時:2022/04/28 13:00:00

損益

決算期 売上高 営業益 経常益 EPS
2018.03 2,199,100 84,000 87,300 23.64
2019.03 2,211,700 57,500 58,700 -10.47
2020.03 2,253,800 59,900 59,300 17.06
2021.03 2,019,300 5,800 8,200 21.93

※金額の単位は[万円]

株価

前日終値 50日平均 200日平均 実績PER 予想PER
157.0 180.72 192.195 6.25

※金額の単位は[円]

キャッシュフロー

決算期 フリーCF 営業CF
2018.03 127,700 192,600
2019.03 57,700 107,200
2020.03 -71,700 2,200
2021.03 3,600 69,800

※金額の単位は[万円]

▼テキスト箇所の抽出

2022 年 4 月 28 日 会 社 名 神東塗料株式会社 代表者名 代表取締役社長 高沢 聡 (コード:4615) 問合せ先 総務人事室部長 塚越 学 (TEL.06-6426-3355) 各 位 当社製の一部製品に係る不適切行為に関する調査報告書公表のお知らせ この度は当社における不適切行為により、お取引先様、水道事業者様をはじめ関係者の皆様方にご迷惑、ご心配をおかけしていることに対しまして、改めて心よりお詫び申し上げます。また、特別調査委員会での調査及び調査の過程で判明したその他不適切案件等の検討に時間を要し、今日まで詳細についてご報告が遅れましたことにつきましてお詫び申し上げます。 当社は、本年 1 月公表の当社製の一部製品に係る不適切行為等について、添付の調査報告書を取り纏め、本日開催の当社取締役会でその公表を決議いたしましたので、お知らせいたします。調査報告書の要約は、下記の通りです。 1.調査報告書について 記 神東塗料 株式会 社(以 下 、「 当社」 といいま す) は 公 益社団法 人日本 水道協 会 の認証規格(JWWA K139)に関する当社の不適切行為の重要性に鑑み、社外弁護士を委員長とする特別調査委員会を設置し、当該不適切行為の事実関係の解明・原因分析を進めるとともに、その他の不適切行為についてもアンケート調査を実施しました。 また、当社は独自に不適切行為と無関係である幹部社員を中心とする社内調査チームを編成し、外部弁護士の支援も得つつ、特別調査委員会の行ったアンケート調査により発見されたその他の不適切行為について、特別調査委員会のアンケート調査結果、および当該委員会発足前に行っていた社内調査結果を精査すると共に、全製品を対象に納入仕様書、検査記録、検査成績書の確認を含め不適切事案の洗い出しを実施いたしました(以下、「その他不適切行為の調査」といいます)。 この度、特別調査委員会から調査結果の報告を受けるとともに、当社が独自に行ったその他不適切行為の調査に関しても結果が出ましたので、これらに対する当社としての再発防止策を付したうえで、調査報告書として取りまとめ、公表いたします。 2.不適切行為の概要 (1) JWWA K139 塗料製品 上記のとおり、一連の調査により判明した不適切行為は 2 つに大別されます。 ① JWWA K139 とは異なる条件で得られた試験結果により認証を取得した製品 ② 2008 年の JWWA K139 規格改訂(使用可能な原料を指定)の際、使用されていた原料の報告を怠ったことにより指定外原料を使用する状態となった製品、及び同改訂後に指定外原料を使用して認証登録した製品 なお、これらの製品は 2022 年 4 月 4 日付「当社製の一部製品に係る不適切行為に関するお知らせ(第 5 報)」で既報のとおり、いずれも省令で定める衛生性が確認されております。 (2) その他不適切行為が認められた製品 その他の不適切行為が認められた製品は、3 つに大別されます。 ① 顧客に提出する検査成績書に定められた検査項目の一部につき、品質上問題がないと判断し、所定の検査頻度を落として検査を実施した行為 55 件 ② 顧客に提出する検査成績書に定められた検査項目の一部につき、品質上問題がないと判断し、所定の検査を省略し、検査成績書に推定値を記載した行為 85 件 ③ 顧客に提出する検査成績書に定められた検査項目の一部につき、検査結果が規格の範囲外であったにもかかわらず、品質上問題がないと判断し、検査成績書には検査結果とは異なり規格内である旨の記載をしたり、検査結果が規格の範囲内であり品質上問題がないと判断し、検査成績書には検査結果とは異なる規格内の数値を記載した行為 467 件 上記(2)に記載のその他不適切行為が認められた製品について、その発生件数を当社製品群別・類型別に整理すると以下のとおりとなります。 塗料 (2)その他不適切行(2) ① (2) ② (2) ③ うち、作業性に うち、性能に 為製品数/全製品数 関する 関する 不適切行為が 不適切行為が あった製品 485 あった製品 23 工業用 建築用 防食用 道路用 軌道用 その他 合 計 508/1233 22 件 53 件 460 件 7/1169 7 件 5 件 0 件 4 35/ 608 24 件 26 件 7 件 27 2/ 203 0/ 70 0/ 288 552/3571 2 件 0 件 0 件 55 件 1 件 0 件 0 件 0 件 2 0 0 件 85 件 0 件 467 件 0 518 3 8 0 0 0 34 注)類型件数は重複あり。 その他不適切行為が認められた製品はいずれも塗料性能への影響はないと考えておりますが、顧客に対しては、謝罪とともに、事案の内容および当該製品の品質が担保されていることについて今後順次個別にご説明し、ご指導に従い適切に対応する予定です。 3.原因 不適切行為が発生した主たる原因は、以下のとおりと考えております。 (1) 不適切行為が発生した原因 ① 顧客に使ってもらえたら良いという安易な判断に傾斜していたこと ② 規格及び顧客仕様への適合性について組織的な対応がとられていなかったこと (2) 不適切行為が長期間発覚しなかった原因 ① 技術部門を始め、各部門における業務態勢が内向的かつ閉鎖的であったこと ② 品質コンプライアンスに関する啓発不足及びモニタリング機能に不備があったこと ③ 内部通報制度が有効に機能していなかったこと (3) これらの背景にある根本的な原因 より根本的な原因として、当社の経営陣において、長期間にわたる経営不振の中で経営をいかにして立て直すかという意識が偏った形で働いた結果、相対的にコンプライアンス及び品質を重視する姿勢がおろそかになったことは否めないと考えております。 4.再発防止策 特別調査委員会の提言も踏まえつつ、当社は一連の再発防止策を策定いたしました。なお、一部の再発防止策については、既に実行に移しております。 p. 2 (1) 経営陣を含む全社的な品質コンプライアンスに対する考え方の抜本的な変革 (2) 品質コンプライアンス体制の構築等を図ること ① 品質保証・品質管理部門のレポートラインの変更 ② 品質保証・品質管理部門の人員の増員及び教育研修 ③ 千葉事業所への品質保証担当部門の設置 ④ 社内規程の見直し (3) コンプライアンス研修の充実・強化 (4) 部門・部署を跨いだ人事ローテーションの推進と属人的な業務の見直し (5) 内部通報制度の周知、利用促進及び独立性の確保 (6) お取引先様との密接なコミュニケーションの推進 5.コンプライアンス・ガバナンス再構築プロジェクト 当社として、社長直轄で全社各部門から成るプロジェクトチームを立ち上げ、上記の再発防止策を確実に実行し、当社のコンプライアンス・ガバナンスの抜本的再構築を図ります。 再発防止策の実行を適時適切にモニタリングするため、社長を委員長とし、社外コンサルタント・社外役員などから構成する、『明日の神東』推進委員会(仮称)を設置いたします。 6.役員の処分 (1)対象者および減額率 今回の事態を真摯に受け止め、経営責任を明確にするため、下記のとおり役員報酬の減額を行います。 対象者 代表取締役 社長執行役員 高沢 聡 報酬月額の 50% 代表取締役 常務執行役員 長尾 俊彦 報酬月額の 20% 取締役 執行役員 上鶴 茂喜 報酬月額の 30% (2)報酬減額の期間 2022 年 5 月から 2 ヵ月間 なお、2022 年 4 月 28 日付けで、代表取締役 専務執行役員1名、監査役1名、および顧問 1 名(2022 年 3 月 31 日付で常務執行役員を退任)が辞任しております。 特別調査委員会の調査で明らかとなった当社の行った一連の行為につきましては、弁解の余地もなく、許されるものではありません。これを機会に、不正に走らない、きちんと仕事ができる会社に生まれ変わっていくために必要なことを、必死になって取り組んでまいります。 記載の通り、当社は再発防止に向けた種々の対策を準備し、一部については既に実行に移しておりますが、何よりも大切なのはこれらのシステムや規定のもとで働く人の心の持ちようであり、これを変えない限り逸脱の芽を摘むことができないことは重々自覚しております。お客様、関係先の皆様の声を大切にし、従業員ひとりひとりと語り合う決意で、企業風土改革に取り組み、一日も早く取引先様、関係者の皆様方から失った信頼を回復していけるよう、全身全霊を傾けてまいります。 添付資料:調査報告書(全 16 ページ) 以上 p. 3 7.結語 2022 年 4 月 28 日 神東塗料株式会社 調査報告書 第 1 はじめに 1 本調査に至る経緯 神東塗料株式会社(以下「当社」という。)は、2021 年 10 月、当社従業員からの自発的な申し出により、公益社団法人日本水道協会(以下「日本水道協会」という。)の規格である JWWA K139(以下「K139」という。)の認証を取得している水道用ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗料(管用)(以下「水道管用塗料」といい、K139 の認証を取得している水道管用塗料を「K139 認証品」という。)の一部について、下記類型の不適切行為(以下「K139 不適切行為」という。)1が行われていた疑いがあることを把握し、事実調査を実施のうえ、2022 年 1 月 12 日に公表した。 K139 所定のものとは異なる条件で得られた試験結果により K139 の認証を取得する行為(以下「K139 不適切認証取得」という。) K139 で指定されていない原料(以下「指定外原料」という。)を使用する行為 (以下「K139 不適切原料使用」という。) この事態を受け、品質保証の状況を徹底的に確認し、抜本的な改善を実施するとの決意のもと、技術部門、製造部門、品質保証・品質管理部門の主管者を中心とする社内調査チームを立ち上げるとともに、2022 年 1 月 14 日、伊丹俊彦氏(弁護士、元大阪高等検察庁検事長)を委員長、矢倉昌子氏(当社独立社外取締役、弁護士)及び日潟一郎氏(当社独立社外監査役、公認会計士)を委員とする外部の専門家を交えた特別調査委員会の設置を取締役会にて決定し、下記第 2 の 1 記載の事項を目的とする調査(以下「委員会調査」という。)を特別調査委員会に委託した2。 また、当社では、委員会調査と並行して、当社製品の品質に係るその他の不適切行為(以下「その他不適切事案」という。)の調査(以下「その他不適切事案調査」といい、委員会調査と併せて「本調査」という。)を実施した。 1 K139 不適切認証取得及び K139 不適切原料使用のほか、K139 認証品でない水道管用塗料(以下「非認証品」という。)を、顧客との間で K139 認証品相当であるとの仕様で販売する旨の契約を締結しており、当該非 K139 認証品が、K139 認証品として備えるべき性能等を満たすことが確認できていなかったとの不適切行為も認められており、非認証品に係る当該不適切行為も委員会調査の対象としているが、本報告書においては、K139 不適切認証取得及び K139 不適切原料使用に係る調査結果等を主に記載することとする。 2 当社と伊丹俊彦氏との間に利害関係はない。なお、特別調査委員会は、合計 12 名の当社と利害関係のない弁護士を調査補助者として任命し、委員会調査の補助をさせた。 1 2 K139 不適切行為及びその他不適切事案が発覚した背景 現中期経営計画(2020 年 4 月より)が開始する前の当社グループは、厳しい市場環境が想定される一方、高経年化した設備の更新投資をはじめとする経費の増加も避けられず、売上高・利益の拡大は容易ではない状況にあった。この課題解決のため、「選択と集中」の原義に立ち返り、塗料設計・製造技術を事業展開のコアとし、①塗料製品の一層の高機能化による収益の改善、②事業範囲の拡大による売上高増加、③前例踏襲の打破・デジタル化等による生産性向上の 3 つを基本方針とし取り組みを進めることにした。あわせて、10 年先である 2029 年の利益目標を、10 年間を準備・実施・収穫の 3 つのフェーズに分けて、様々な施策を進めることまた、そうした施策の不可欠な部分として、一段の業績改善を達成するためには、会社全体の活性化を図ることが必須であるとの考えから、同時に人材マネジメント、コンプライアンス、環境安全、品質保証といった基盤整備にも力を入れることにした。 とした。 具体的には、スピークアップ窓口の強化(社外弁護士窓口に加えて住友化学株式会社窓口を追加)、通報者が保護される等のスピークアップ制度の周知徹底、コンプライアンス意識調査や職場懇談会の実施、法務部門の設置・段階的増員、各種法務研修の充実等を実施。その結果もあり、スピークアップ通報もわずかながら増加した(2018 年までに合計 1 件、2019 年以降は毎年 1~3 件)。また、2020 年度に品質保証専任人材の確保、2021 年度に品質保証環境安全部を品質保証部と環境安全部に分割するなど、品質保証部の人員増を図り、品質保証体制の整備充実を進めてこうした取り組みが、今回の K139 不適切行為の内部通報、またその後の全社的なその他不適切事案の発見に繋がったと考えている。 きた。 3 本報告書の構成 本報告書は、特別調査委員会による委員会調査結果及び当社によるその他不適切事案調査結果を踏まえて、K139 不適切行為及びその他不適切事案に関する判明事実、原因分析並びに再発防止策等を当社において取りまとめたものである。 本報告書の構成は、①本調査の概要(下記第 2)、②K139 不適切行為に係る判明事実(下記第 3)、③K139 不適切行為に関連する対応及び発覚状況(下記第 4)、④その他不適切事案調査に係る判明事実(下記第 5)、⑤原因分析及び再発防止策(下記第 6 及び第 7)並びに⑥結語(下記第 8)となっている。 2 第 2 本調査の概要 1 委員会調査の目的・調査方法・期間 委員会調査の目的は、①K139 不適切行為の事実関係の解明、②K139 不適切行為の原因分析、③再発防止策の提言、及び④その他不適切事案の調査である。 特別調査委員会は、下記調査期間中、関連資料精査、関係者へのヒアリングを実施したほか、その他不適切事案の洗い出し等を目的とし、当社の役員3及び従業員(以下「役職員」という。)を対象としたアンケート調査等の調査を実施した4。また、特別調査委員会は、デジタル・フォレンジック調査を実施し、当社の役職員が業務上使用しているパソコン等に含まれる電子データ約 5,700,000 件を保全し、人工知能によるスクリーニングによって K139 不適切行為との関連性が高いと判定された電子データ約 32,000 件を精査した。 委員会調査の期間は、2022 年 1 月 14 日から同年 4 月 28 日である。 2 その他不適切事案調査の目的・期間・調査方法 その他不適切事案調査の目的は、①その他不適切事案の有無の調査、②その他不適切事案の事実関係の解明、③その他不適切事案の原因分析、及び④再発防止策の策定である。 特別調査委員会はその他不適切事案調査において、同委員会によるアンケート調査の申告者を対象に実施したヒアリングによる申告内容の取り纏めを実施した5。 当社は、特別調査委員会と並行し、技術部門、製造部門、品質保証・品質管理部門の主管者を中心とする社内調査チームを編成した。社内調査チームは、特別調査委員会のアンケート調査結果、および当該委員会発足前に行っていた社内調査結果を精査し、品質保証・品質管理部門に対して、全製品を対象に納入仕様書、検査記録、検査成績書の確認を含め不適切事案の洗い出しを指示した。 不適切事案の洗い出し作業完了後、抜け漏れが無いかどうかを確認するため、社内調査チームは、統計的手法を用いて、一定数の検査実績を拾い出し、それらについて、不適切事案の洗い出し漏れが無い事を確認した。その後、社内調査チームは、不適切事案に関して、外部弁護士の支援を得つつ、社内の技術、製造、品質保証に関わる管理社員等に対して、ヒアリングを実施し、それら不適切事案を行って来た経緯および背景について調査を行った。 なお、社内調査チームによるその他不適切事案の調査の期間は 2022 年 1 月 14 日から同年 4 月 28 日である。(その他不適切事案調査の詳細は下記第 5)。 3 本報告書において、「役員」とは、取締役、監査役、執行役員、理事及び顧問をいう。 4 このほか特別調査委員会は、同委員会に直接アクセス可能なホットライン窓口を開設し、当社役職員等から広く情報収集を行った。 5 特別調査委員会は、アンケート調査において、その申告内容に係る真実性の検証は行っていない。 3 第 3 K139 不適切行為に係る判明事実 委員会調査の結果、当社の K139 認証品のうち、本調査開始時点において、全 30 製品中6、8 製品について K139 不適切認証取得が、18 製品について K139 不適切原料使用が行われていたこと7、又はその可能性が高いことがそれぞれ認められた。 1 K139 不適切認証取得について (1) 概要 当社は、日本水道協会に対する認証取得又は変更申請(以下、認証取得申請及び変更申請を併せて「認証申請」という。)時に実施する、K139 水道管用塗料の浸出性を測定する試験(以下「浸出試験」という。)を第三者試験機関に委託しているが、同試験用の試験片は、当社の技術部門8が作成していた。この点、浸出試験用の試験片は、K139 所定の方法で作成すべきところ、当社では、遅くとも 2007 年以降、その方法に従った場合、浸出試験に合格できない可能性があるとの懸念等から、水で溶かすことで使用することができる K139水道管用塗料(以下「水系 K139 水道管用塗料」という。)95 製品に係る認証申請時10に、技術部門の担当者が、所定のものとは異なる下記①から③の行為のうちの複数を組み合わせた方法により作成した試験片を第三者試験機関に提出し、これにより得られた試験結果を日本水道協会に提出していた。 ① 所定の温度(60±5℃)よりも高温の環境で、対象製品を塗布した試験片② 所定の乾燥時間(24 時間)よりも長時間、対象製品を塗布した試験片を③ 所定の洗浄時間(1 時間)よりも長時間、対象製品を塗布した試験片をを乾燥させる行為 乾燥させる行為 洗浄する行為 また、2001 年から 2004 年に行われた水系 K139 水道管用塗料 3 製品に係る認証申請時にも、技術部門の担当者がこれと同様のことを行っていた可能性が高いことが判明した11。 6 登録が抹消されており、かつ出荷実績の確認できない 4 製品を除く。 7 現規格上、指定外原料使用に該当しなくなった 12 製品を除く。 8 K139 水道管用塗料の設計・開発を担当する技術部門は、2000 年 4 月以降は、IU 事業本部下の工業用塗料事業部、2010 年 4 月以降は、技術本部下の第 2 技術部、2020 年 4 月以降は、インダストリアル分野技術部である。 9 K139 水道管用塗料には、水系 K139 水道管用塗料のほか、シンナー等の溶剤で溶かすことで使用することができるものがある。 10 この他、1 製品については、変更申請時に同様の行為を実施していた。 11 2001 年から 2004 年に K139 の認証申請を担当していた K139 水道管用塗料担当技術部の担当者は、本調査開始時点で既に逝去しており、同担当者に対するヒアリングは実施できなかったこと、同担当者が K139不適切認証取得に及んでいた事実を認定するに足る客観資料等は確認されなかった。 4 (2) 経緯 2001 年 4 月 1 日の水道施設の技術的基準を定める省令(平成 12 年 2 月 23 日号外厚生省令第 15 号)施行に伴い、K139 水道管用塗料について、同基準に適合する K139 認証品への需要が高まり、当社も K139 の認証品の開発を進めたが、安定した性能を持つ製品を開発することは容易ではなかった。一方で、同認証を取得できなければ失注するか、そうでなくとも、顧客との関係性悪化が懸念される状況であったと考えられ、こうした事情が、当時開発を担当していた技術部門の担当者が K139 不適切認証取得(疑い)を行う背景となった可能性が認められた。 その後、上記担当者と共に K139 水道管用塗料を担当するようになった技術部門の担当者は、認証を取得するために実施される浸出試験に合格するために、元の担当者から上記(1)①から③の方法で試験片を作成する旨を教示され、それが K139 所定の方法と異なることは認識したものの、自身の知識不足及び上司である当該担当者が実践していた方法であったこと等から当該方法を踏襲することとした。2006 年頃、当時管理職であった元の担当者が病気療養のため休職(以降当該管理職が復職することはなかった。)し、別の管理職(管理職は 2014 年 6 月から 2022 年 3 月まで技術部門の担当役員であった。)がそのポストを引き継いだが、当該管理職も、業務に従事する中で遅くとも 2012年までには部下から報告を受ける形で K139 不適切認証取得を認識した。 また 2006 年から共に K139 水道管用塗料を担当することとなった担当者も、上記(1)①から③の方法を教示されてこれに従った。当該担当者も、2011 年頃には、上記(1)①から③の方法が K139 所定の方法と異なることを認識したが、上司である管理職も認識の下で行われており、今さら止めることはできないと考え、それ以降の認証申請時にも K139 不適切認証取得を継続した。 2 K139 不適切原料使用について (1) 対象製品 18 製品である。 (2) 経緯 K139 不適切原料使用が認められた K139 認証品は、K139 認証品全 30 製品中、平成 20 年 3 月 31 日付けの K139 の改正(以下「2008 年改正」という。)において K139 水道管用塗料に使用可能な原料が指定された結果、当社が K139 の認証を取得した製品のうち 18 製品は、指定外原料を使用していることとなり、K139 に違反する状態となった。経緯の概略は以下のとおりである。すなわち、2008 年改正は、同改正前に K139 認証品に現に使用されていた原料及び今後使用される可能性がある原料を、K139 認証品に使用できる塗料の組成原料とし5 て指定するものであり、2008 年改正に際し、K139 水道管用塗料の製造者は、これらの原料を日本水道協会に届け出ることにより、引き続き同原料を使用することができた。 しかしながら、当時、当社の技術部門は、適時に当該改正及び届出に係る情報を把握できず、上記届出はなされなかった。その結果、2008 年改正以前に認証登録された K139 認証品のうち、11 製品は、指定外原料を使用していることとなり、2008 年改正以降、K139 に違反する状態となってしまった。 その後もしばらくの間、当社において、2008 年改正により K139 認証品に使用可能な原料が指定されたことを把握できていなかったが、2010 年 7 月頃、K139 水道管用塗料について K139 の認証を新たに取得する準備を進めていた担当者は、2008 年改正後の K139 の内容を確認した際、2008 年改正前に認証登録された K139 認証品が、指定外原料の使用により K139 に違反する状態になっていることを覚知した。そこで、当該担当者は、その旨を上司である管理職に報告した。 しかしながら、管理職は、指定外原料を使用しない場合に K139 認証品の品質を維持できないおそれがあったことや、K139 水道管用塗料の担当者は K139認証品に含まれる指定外原料はごく微量であり安全性に問題はないと考えていたこと等から、指定外原料の使用を継続することを指示した。 また、新製品 7 品目についても、指定外原料を使用している既存 K139 認証品の一部変更品であって、顧客との関係で K139 不適切原料使用を伏せたまま一部の原料の変更をすることができなかったり、指定外原料を使用しない場合に K139 認証品の品質を維持できないおそれがあったりしたため、当該管理職の下で新たに担当となった担当者により、指定外原料を使用した上で K139の認証を取得し、同製品を製造及び販売した。 さらに、遅くとも 2015 年までに、尼崎工場で製造される製品の品質管理及び品質保証を担当する部門(以下「尼崎品質管理・保証部門」という。)12の部門長及び同部門の担当者も、K139 不適切原料使用を認識したが、同部門長等は、K139 不適切原料使用を黙認した。 こうして 2008 年改正後、18 製品の K139 水道管用塗料について、指定外原料が使用されていることを秘したまま K139 認証品としての製造及び販売が行われた。 なお、2008 年改正以降、K139 不適切原料使用が行われていた一方で、2012年以降、技術部門の担当者らは、一部の指定外原料の使用を取り止める設計変更を行うなど、K139 不適切原料使用の是正に向けた取組みを進めていた。ま12 尼崎品質管理・保証部門は、2011 年以前は、尼崎 QC 課、2012 年 12 月以降は、尼崎品質保証グループ、2021 年 4 月以降は、尼崎品質管理グループである。 6 た、2015 年に行われた K139 の改正により、使用可能な原料が追加指定された。これらにより、脚注7のとおり、K139 不適切原料使用の対象製品のうち 12 製品については、本調査開始までの間に、K139 不適切原料使用が是正された。 第 4 K139 不適切行為に関連する対応及び発覚状況 委員会調査により判明した K139 不適切行為に関連する対応及び発覚状況の要旨は以下のとおりである。 すなわち、日本水道協会が毎年度尼崎工場に対して実施する定期工場調査 (以下「尼崎定期工場調査」という。)のうち、2006 年度、2007 年度及び 2011 年度の調査において、技術部門及び尼崎工場品質管理・保証部門の担当者が、調査対象製品である水系K139 水道管用塗料に係る浸出試験用の試験片を上記第 3 の 1(1)記載の方法で作成した試験片を浸出試験に使用したことが認められ、2004 年度の調査においてもその可能性が高いといえる。そして、2012 年度の尼崎定期工場調査以降、調査対象製品に水系 K139水道管用塗料が選定されないよう両部門間で調整の上、日本水道協会に対して提示する調査対象製品の候補から水系 K139 水道管用塗料を意図的に除外し、また、遅くとも2015 年以降、技術部門及び尼崎工場品質管理・保証部門の担当者は、尼崎定期工場調査に先立ち、調査対象製品の原料配合表から指定外原料を削除した内容虚偽の原料配合表を作成の上、同調査の際に、K139 不適切原料使用が発覚しないようにするための回答案を準備するなどしていた。 2021 年度の尼崎定期工場調査の調査対象製品の選定の際、技術部門の 4 名の担当者とその上司である管理職及び品質保証部門の管理職らは、意図的に水系 K139 水道管用塗料を除外することは止めるべきであると考え、かかる行為の停止について会議で申し合わせのうえ、2021 年 10 月に、総務人事室に K139 不適切行為の存在を通報した。これを受け、総務人事室は、同担当者等に関連資料の提出を求めるとともに、同担当者等に対するヒアリングを実施して K139 不適切行為の内容を把握した上、同年 12 月に、当社社長に K139 不適切行為を報告した。 第 5 その他不適切事案調査に係る判明事実 1 概要 特別調査委員会によるその他不適切事案調査結果によれば、同委員会によるアンケート調査の申告者を対象に実施したヒアリングの結果に依拠するものであり、各その他不適切事案の真実性の検証までは行われていないことを前提として、試験及び検査結果の書換え・作出に関連する事案が 34 件、試験及び検査手続の規格違反に関連する事案が 15 件、製品ロットの不適切な取扱いに関連する事案が 9 件、その他の事案が 3 件確認された。 7 当社において、K139 不適切行為発覚後、その他不適切事案の有無について調査しており、以上の委員会調査結果も踏まえて、その他不適切事案調査を実施したところ、当社製の工業用塗料、建築用塗料、防食用塗料、道路用塗料等の一部(以下「その他不適切事案対象製品」という。)について、下記類型の不適切行為が存在することが認められた。 ① 顧客に提出する検査成績書に定められた検査項目の一部につき、品質上問題がないと判断し、所定の検査頻度を落として検査を実施した行為 55 件 ② 顧客に提出する検査成績書に定められた検査項目の一部につき、品質上問題がないと判断し、所定の検査を省略し、検査成績書に推定値を記載した行為 85 件 ③ 顧客に提出する検査成績書に定められた検査項目の一部につき、検査結果が規格の範囲外であったにもかかわらず、品質上問題がないと判断し、検査成績書には検査結果とは異なり規格内である旨の記載をしたり、検査結果が規格の範囲内であり品質上問題がないと判断し、検査成績書には検査結果とは異なる規格内の数値を記載した行為 467 件 2 経緯 その他不適切事案対象製品毎で、不適切行為が発生した経緯は異なり、必ずしも全ての不適切行為に該当するものではないが、大要、以下のとおりである。 すなわち、その他不適切事案対象製品の中には、顧客から受注を獲得するために顧客との納入仕様書上厳しい検査頻度若しくは規格値で合意し、又は顧客の要望に従って厳しい納期で受注した結果、実際に当該製品を出荷する際に、顧客仕様を満たすことが困難となった。また、その他不適切事案対象製品の中には、技術部門又は品質保証・品質管理部門が納入仕様書、検査成績書等を適切に管理していなかったこと、塗料の配合変更等をした場合に顧客に対して納入仕様書の変更申請等を依頼する体制が構築されていなかったこと等の理由から、納入仕様書上の規格と社内規格に齟齬が生じてしまったものが認められる13。 このような齟齬が生じた場合、本来的には、顧客に対して納入仕様書の変更申請等を行うべきであるが、これにより失注する可能性があることや、それがなくとも顧客との信頼関係が悪化することを回避したいとの意識が働いたと考えられる。 また、その他不適切事案対象製品の中には、納入仕様書上の規格内の数値であっても実測値が安定しない場合、顧客から指摘を受けることがあるため、これを避けるために実測値とは異なる一定値を検査成績書上に記載したものも認められる。 13 本来的には、社内規格は納入仕様書上の規格(顧客仕様)よりも厳格に定められるものであるため、社内規格を満たす場合には必然的に顧客仕様も満たすことになるが、当社では、社内規格と顧客仕様に齟齬が生じたことで、検査結果が社内規格を満たしても顧客仕様を満たさない場合が相当数存在することが確認された。 8 このような経緯により上記不適切行為を行った結果、それ以降、顧客に対して納入仕様書の変更申請を行った場合や、一定値ではなく実測値を検査成績書上に記載した場合等には、過去の不適切行為の存在が発覚する可能性があるため、その発覚を防ぐ必要があった一方で、出荷済みのその他不適切事案対象製品に関して顧客での塗装時における実用上の問題も生じていないため、顧客との仕様を遵守する意識は重視されず、不適切行為を長年是正することができなかった。 第 6 原因分析 1 不適切行為が発生した原因の分析 (1) 顧客に使ってもらえたら良いという安易な判断に傾斜していたこと 不適切行為が発生した原因として、顧客に使ってもらえたら良いという安易な判断に傾斜し、顧客における作業において、実用性が十分確保されていれば、規格や顧客仕様書に合致しないとしても、実質的な品質や衛生性に問題はないという勝手な思い込みがあり、役職員の内心において、不正を正当化する根拠となっていたことが挙げられる。 また、品質コンプライアンス、品質に係る法令及び規格に関する教育・研修やその改定内容の周知等が体系的に行われていない結果、その重要性が技術部門及び品質保証・品質管理部門において十分に理解されておらず、その内容の理解や、規格や顧客仕様への合致については、担当者任せの状況であった。 また、塗料の製造ロット毎に工程管理用に粘度、密度、分散度の分析を行い、異常がないことから、顧客仕様書に記載の検査規格からの多少のずれがあったり、検査頻度を落としたりしても、品質上問題ないという安易な判断をしていた事例が挙げられる。 こと (2) 規格及び顧客仕様への適合性について組織的な対応がとられていなかった次に、規格及び顧客仕様の遵守について組織的な対応がとられておらず、担当者への支援や、担当者に対するけん制が十分でなかったことが挙げられる。 塗料開発においては、技術部門及び品質保証・品質管理部門だけでなく、営業部門も含め、全社的かつ慎重に、規格や顧客仕様に適合する製品を開発する必要がある。 しかしながら、技術部門においては、開発は一担当者任せになっており、担当者が困難に直面した場合には、同僚や上司等が確認し、チーム・組織として対応する体制が整備されていなかった。また、開発時の試験についても一担当者が単独で実施可能であり、複数の担当者による相互監視や、上市承認手続き時において試験記録の詳細や規格・顧客仕様書への適合性について、上司や品9 質保証・品質管理部門等の他部署は確認する手続きとなっておらず、技術上の課題に直面した際に、担当者が不正行為に誘因されやすい環境であった。 例えば、技術部門では、K139 の認証を取得するための浸出試験用の試験片の作成時の温度、乾燥時間、洗浄時間等を記録することは義務づけられておらず、K139 水道管用塗料の開発の際に、技術部門の同僚・上司や、品質保証・品質管理部門が、製品の開発手順、開発された製品の K139 への適合性を確認する体制になっていなかった。その結果、技術部門の担当者は、浸出試験を実施するに当たり、K139 所定のものと異なる方法で試験片を作成し、前任者から引き継いだ者も、その方法に疑念を持ちながらもそれを踏襲した。 さらに、技術部門及び品質保証・品質管理部門において、納入仕様書、検査成績書等が適切に管理されず、顧客に対して変更申請等を依頼する体制も構築されていなかった。このため、納入仕様書上の規格と社内規格に齟齬が生じているため、顧客仕様を外れる事態が発生してしまい、品質保証・品質管理部門は、当該製品を出荷するため、検査成績書上の検査記録について顧客仕様を満たす形に書き換えざるを得ない状況となった。 2 不適切行為が長期間発覚しなかった原因の分析 (1) 技術部門をはじめ、各部門における業務態勢が内向的かつ閉鎖的であったこと 技術部門では、製品ごとに担当者が決まっていたため、担当業務の専門化及び細分化が進んでおり、一度特定の製品を担当すると、長期間にわたって部署異動がない傾向にあった14。 加えて、技術部門と他部署との間の情報共有の機会は少なく、他部署が各塗料の開発に係る業務内容、規格や顧客の仕様書における要求事項を十分に理解することは難しい状況にあった。 また、当社においては、2010 年から 2020 年までの間、営業本部、技術本部及び生産本部の 3 本部制を採っていたところ、各本部の担当役員のローテーションはなく、通常、引退まで当該担当役員が業務執行し続ける体制となっており、本部間の横軸の連携を補充する仕組みがないまま運用されていたため、各本部の独立性が強く、他本部の業務に口を出すことが憚られる風潮があった。 14 例えば、水系 K139 水道管用塗料については、K139 不適切認証取得が初めて行われた可能性が高い 2001年から今日までの約 20 年間で、担当者としてその開発を主に担当したのは 3 名のみであり、K139 不適切認証取得についても、この 3 名によって行われていた。このように顔ぶれが固定化された組織内では、現状の維持・踏襲が基本となり、不適切行為について、それを認識した者にとって、その是正を図るべく、声を上げることが非常に難しかったものと考えられる。 10 このような人事的な流動性に乏しく、閉鎖的な環境があったことに加え、一定の時期からは、上司も不適切行為の存在を認識していた状況にあったことは、不適切行為の関与者によるその是正を困難にする要因であったと考えられる。 ったこと (2) 品質コンプライアンスに関する啓発不足及びモニタリング機能に不備があア 品質保証・品質管理部門によるモニタリング機能に不備があったこと 上記 1(2)のとおり、認証申請の段階において、品質保証・品質管理部門が、技術部門が行った開発結果の規格への適合性及び顧客仕様の遵守を検証する機能が有効に働いていなかった。特に、その他不適切事案対象製品に関する品質保証・品質管理部門の検査人員や検査機器台数が長年慢性的に不足しており、品質保証・品質管理部門において是正を図ることは難しかったといえる。 加えて、品質保証・品質管理部門においては、その他不適切事案対象製品の試験及び検査に関連する資料は有しているものの、納入仕様書は品質保証・品質管理部門は有しておらず、技術部門の担当者が製品毎に分けて各自で管理していたため、品質保証・品質管理部門が顧客仕様の内容を正確に認識し、納入仕様書等を変更等する機会が無かった。 また、品質保証・品質管理部門を中心に ISO9001 に基づく内部品質監査が実施されているが、ISO9001 に基づく監査は、一定の水準の品質管理システムが存在するか否かを確認するにとどまっており、ISO9001 に準拠する品質管理システムを構築したという事実に満足し、運用面まで深堀りする取り組みにまで至らなかった。 イ 内部監査部、監査役等によるモニタリング機能に不備があったこと 内部監査部は、J-SOX の内部統制や経理に関する現金等の現物管理を中心とした内部監査を実施することに主眼があり、品質コンプライアンスを対象とした監査を実施していなかった。また、一般的なコンプライアンス事項を担当する総務人事室も、品質や技術的事項に焦点を置いたモニタリングを行う機能を有していなかった。そのため、内部監査部及び総務人事室には、技術的な知見のある人員が配置されていなかった。監査役による監査においては、本来、監査役として、品質保証体制や、その体制下において適切な人員配置がなされているかなどの運用状況について監査を実施するべきであったが、特に品質関係を担当すべき監査役自身が元品質保証の責任者であったこともあり、十分なけん制機能を果たすことができなかった。 11 このように、当社内で実施されていた各種監査等は、結果として潜在的な品質問題を探知しうる制度または運用となっておらず、これが、当社において K139 不適切行為が長期間にわたって発覚しなかった一つの原因といえる。 (3) 内部通報制度が有効に機能していなかったこと 本件では、2010 年以降、約 10 年にわたって技術部門の管理職及び技術部門の担当役員であった者が、K139 不適切行為を認識しながら是正に向けた積極的な措置を講じてこなかった点において、通常のレポートラインが機能しておらず、当社の内部通報制度の利用が期待される事案であったといえる。そして、このような事案においては、独立した組織・人員により当該不適切行為の調査が実施されることが、内部通報制度を適切に機能させるために必要であった。 しかしながら、当社の内部通報制度上、コンプライアンス委員会が通報内容の最終的な報告先及び調査主体とされており、同委員会の構成員は取締役会の構成員と同じであった。また、内部通報制度の運用に当たって、部門長や役員等が対象となる事案に関与している場合に、どのように報告先及び調査主体の独立性を確保するのかといった点は明確ではなかった。 このため、K139 不適切行為を認識していた上記技術部門の担当役員がコンプライアンス委員会の構成員であった際には、仮に内部通報制度を利用して不適切行為を報告したとしても適切な調査及び対応がとられる可能性は低いと考える従業員も複数いた。 これに加えて、当社における内部通報制度の周知及び利用促進に関する活動は積極的に実施されていなかった。さらに、当社の内部通報制度は、調査の守秘性及び通報者の保護に対する従業員からの信頼性にも欠けていた。 このような内部通報制度の設計上及び運用上のこれらの不備は、当社において不適切行為が長期間にわたって発覚しなかった一つの原因であったといえる。 3 これらの背景にある根本的な原因の分析 不適切行為の原因と考えられるものは以上のとおり多岐にわたるが、これらの背景にある、より根本的な原因としては、当社において、ごく近年まで、失注等による売上の減少を恐れ、品質重視より目先の売上を優先する旧態依然の経営スタイルが維持されてきたことが指摘できるものと考えられる。 すなわち、当社は、液晶表示板用カラーフィルター事業の収益が悪化したこと等により多額の赤字を計上したことから、1996 年に同事業を他社に営業譲渡して同事業から撤退した。その後、国内塗料市場の縮小を受け、製品単価の引下げ、設備12 投資の抑制、諸経費の削減等を徹底し、各部門が一体となってあらゆる面において収益力強化による確固たる収益基盤の構築に努める必要があった。 こうした中にあって、当社の技術部門としては、本来であれば、顧客からの信頼の基盤である品質コンプライアンスを重視し、自身の技術力を前提に顧客から製品に対する理解を得るなどして顧客からの受注を確保し収益を上げるべきであった。しかし、実際には、上記 1(2)のとおり、当社においては組織として塗料の開発に取り組む体制が不十分であり、事実上一担当者がその開発を任されていた。こうした状況において、当該担当者が失注等を恐れ、品質より目先の売上向上に拘泥して K139 不適切認証取得を行うに至った可能性が高い。この考えは、その他不適切事案対象製品の中でも、顧客から受注を獲得するために、顧客との納入仕様書上厳しい検査頻度若しくは規格値で合意し、又は顧客の要望に従って厳しい納期で受注した結果、これを満たすことが困難となったものが認められた点にも端的に現れているといえる。 そして、世間一般でコンプライアンスが重要視されるようになっても、K139 への適合性を検証する体制が脆弱であり他人の目に触れずに K139 不適切認証取得を行うことができた環境とも相まって、担当者は、従前行われてきた K139 不適切認証取得の発覚を免れるため、更なる K139 不適切認証取得を継続していたものと考えられる。 また、その他不適切事案でも、一度不適切行為が行われた後、顧客に対して納入仕様書の変更申請を行った場合や、実測値を検査結果として報告した場合には、過去の不適切行為の存在が発覚するのを恐れ、その他不適切事案を長期にわたって継続していたといえる。 このように、K139 水道管用塗料及びその他不適切事案対象製品の担当者は、不適切行為を継承し、技術部門の担当役員も、不適切行為の一部を認識したにもかかわらず、不適切行為を顧客に明らかにすることは、新製品の受注を困難にし、今後の受注を極めて困難にするばかりか、当社の信用失墜を招くことを恐れて、不適切行為を継続・維持した。 当社において、これまでの経営陣が、長期間にわたる経営不振の中で経営をいかにして立て直すかという意識が偏った形で働いた結果、相対的にコンプライアンス及び品質を重視する姿勢がおろそかになったことは否めない。 13 第 7 再発防止策 特別調査委員会の提言も踏まえつつ、当社は一連の再発防止策を策定した。なお、一部の再発防止策については、既に実行に移している。 1 経営陣を含む全社的な品質コンプライアンスに対する考え方の抜本的な変革 上記第 6 の 3 のとおり、当社においては、経営陣から従業員に対して品質コンプライアンス意識を向上させるための活動が十分に行うことが出来ておらず、これによって担当者の規範意識が希薄化して不適切行為を抑止できなかっただけでなく、上記第 6 の 2(3)のとおり、内部通報を行っても経営陣は適切な調査をしないだろうと従業員が考えていたことで不適切行為の発覚の機会を失わせていた。 まずは、この根本原因を取り除き、従業員の品質コンプライアンス意識の向上を図ることが何よりも必要であるため、今後の当社においては、経営陣が業績のみならず、品質コンプライアンスをも優先し、法令や規格等の遵守を重視すること、そのために必要な体制を整備すること、品質コンプライアンス上の懸念と誠実に向き合うこと等について、絶えず従業員に明確な発信をし続ける。そして、経営陣も、自らの声で部下である従業員に問題意識を伝え続けていく。 2 品質コンプライアンス体制の構築等を図ること 上記第 6 の 1(2)及び 2(1)のとおり、当社においては、塗料の開発過程において組織内で情報を共有する体制となっていなかったことや、規格への適合性を検証し監査する仕組みが十分でなかったこと等を確認した。こうした状況を是正するために、効果的な品質コンプライアンス体制を構築する。 (1) 品質保証・品質管理部門のレポートラインの変更 これまで、品質保証・品質管理部門を担当する理事は、製造部門の担当役員をレポートラインとしてきたが、品質保証・品質管理部門の被牽制部門からの独立性を確保するために、2022 年 4 月以降は社長を直接のレポートラインとした。 (2) 品質保証・品質管理部門の人員の増員及び教育研修 品質保証・品質管理部門内では、リソース及びスキルの不足によって十分に機能していない業務があったため、品質保証機能(出荷承認、不適合管理、逸脱管理及び品質内部監査の各業務を含むが、これに限られない。)を担う品質保証・品質管理部門の増員を 2022 年 4 月から順次実施しており、かつ構成員に対して外部講師等による研修を実施することでそのスキルを向上し機能強化を図る予定である。 (3) 千葉事業所への品質保証担当部門の設置 従前、千葉事業所には、同事業所で品質保証業務を担当する部門が存在しな14 かったため、2022 年 4 月に千葉事業所に当該部門を新設した。 (4) 社内規程の見直し これまで技術部門のみ(一部は技術部門と営業部門のみ)で製品の開発プロセスの各ステップにおける議論等を行ってきたが、2022 年 5 月に社内規程を改定し、開発段階で品質保証・品質管理部門が関与する形にする予定である。 3 コンプライアンス研修の充実・強化 上記 6 の 1(1)のとおり、従前は、当社においては、法令に関する教育・研修やその改定内容の把握を体系的に行うことができておらず、このことが不適切行為を発生させ、発覚を遅らせた一つの原因であった。これを踏まえ、製品に関連する法令及び規格の内容や、これらを遵守するために社内で策定した社内規則・マニュアル等の内容を、関係し得る部署の従業員に対し、定期的に周知し、その内容について教育・研修を実施する。また、管理職を含む複数の従業員が相当以前から不適切行為を認識していたにもかかわらず、是正や社長への報告等の対応がとられなかったこと、不適切行為を行った従業員は、品質や衛生性に問題がないはずという理由で不適切行為を正当化していたことを踏まえれば、法令及び規格の内容だけでなく、品質コンプライアンスがなぜ重要で、業務の中で懸念を持った場合にどのように行動すべきかという観点から、不適切行為や他社の事例を題材にするなどして、従業員に対して品質コンプライアンス一般に関する研修・教育を実施する。 具体的には、2022 年 5 月以降、外部講師による講義の形式も取り入れ、全ての役職員に対して、企業理念や行動指針に基づく業務遂行や品質コンプライアンスに関する意識改革を含むコンプライアンス研修を実施する予定である。 4 部門・部署を跨いだ人事ローテーションの推進と属人的な業務の見直し 上記第 6 の 2(1)のとおり、技術部門が閉鎖的な環境であったことから、不適切行為を認識していた技術部門の担当者にとって、不適切行為を是正するために声を上げにくかったことが、不適切行為の発覚を遅らせた一因になっていることを踏まえると、当該部門の担当者が長期間同じ部署に留まらず、他部署の業務を経験することが再発防止のひとつとして重要である。 そこで、担当者が長期間同じ部署に留まらないよう適時・適切に人事異動を行うことにより、属人的な業務を改めていく。 5 内部通報制度の周知、利用促進及び独立性の確保 上記第 6 の 2(3)のとおり、当社の内部通報制度は経営幹部からの独立性が十分であるといえず、周知活動が日頃から行われていなかったことも相まって、不適切行為を同制度経由で報告する従業員は、2021 年 10 月までいなかった。このことを踏まえ、経営幹部が関与している通報事案について調査等の独立性を確保するた15 めの措置を講じたり、そうした措置の内容を含む内部通報制度の詳細を改めて従業員に対して明示・周知する。こうした措置に加えて、会社として内部通報制度の利用自体を推奨し、通報者に対する犯人捜しや不利益取扱い等を許さない姿勢を経営陣のメッセージとして明確にすることで、重大なコンプライアンス違反が同制度を通じて通報されやすい環境を構築する。 6 お取引先様との密接なコミュニケーションの推進 その他不適切事案の生じた一因として、お取引先様からの作業性の改善等の要望実現に注力するあまり、約定した規格値についての適時適切な見直しに関するコミュニケーションがおざなりになってしまった反省をもとに、今後は改善改良の過程で見直しが必要になった規格値については、社内規程を順守しつつ、適時適切にお取引先様とご相談し、ご理解を得るようにする。 7 コンプライアンス・ガバナンス再構築プロジェクト 当社として、社長直轄で全社各部門から成るプロジェクトチームを立ち上げ、上記 1 の再発防止策を確実に実行し、当社のコンプライアンス・ガバナンスの抜本的再構築を図る。 なお、再発防止策の実行を適時適切にモニタリングするため、社長を委員長とし、社外コンサルタント・社外役員などから構成する、『明日の神東』推進委員会(仮称)を設置する。 第 8 結語 この度は当社における不適切行為により、お取引先様、水道事業者様をはじめ関係者の皆様方にご迷惑、ご心配をおかけしていることに対しまして、改めて心よりお詫び申し上げます。また、特別調査委員会での調査及び調査の過程で判明したその他不適切事案等の検討等に時間を要し、今日まで詳細についてご報告が遅れましたことにつきましてお詫び申し上げます。 調査で明らかとなった当社の行った一連の行為につきましては、弁解の余地もなく、許されるものではありません。これを機会に、不正に走らない、きちんと仕事ができる会社に生まれ変わっていくために必要なことを、必死になって取り組んでまいります。 記載のとおり、当社は再発防止に向けた種々の対策を準備し、一部については既に実行に移しておりますが、何よりも大切なのはこれらのシステムや規定のもとで働く人の心の持ちようであり、これを変えない限り逸脱の芽を摘むことができないことは重々自覚しております。 お客様、関係先の皆様の声を大切にし、従業員ひとりひとりと語り合う決意で、企業風土改革に取り組み、一日も早く取引先様、関係者の皆様方から失った信頼を回復していけるよう、全身全霊を傾けてまいります。 以上 16

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