アジャイルメディア・ネットワーク(6573) – 第三者委員会の調査報告書の公表について

URLをコピーする
URLをコピーしました!

開示日時:2022/04/11 20:00:00

損益

決算期 売上高 営業益 経常益 EPS
2018.12 91,036 9,050 8,098 38.35
2019.12 84,702 -13,869 -14,387 -92.97
2020.12 66,735 -26,443 -24,912 -134.89

※金額の単位は[万円]

株価

前日終値 50日平均 200日平均 実績PER 予想PER
458.0 463.72 507.53

※金額の単位は[円]

キャッシュフロー

決算期 フリーCF 営業CF
2018.12 -6,478 3,078
2019.12 -27,355 -5,561
2020.12 -17,961 -10,247

※金額の単位は[万円]

▼テキスト箇所の抽出

各 位 2022年4月11日 会 社 名 アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 代 表 者 名 代 表 取 締 役 社 長 上 田 怜 史 (コード番号 6573 グロース) 問 合 せ 先 管 理 部 部 長 寺 本 直 樹 (TEL 03-6435-7130(代表)) 第三者委員会の調査報告書の公表について 当社は、2022 年3月1日付「第三者委員会の設置及び 2021 年 12 月期決算発表の延期に関するお知らせ」にて開示いたしましたとおり、当社台湾子会社における過去の取引ならびに当社における売上や費用が本来計上すべき期に計上されていない等の疑義について、外部の有識者で構成された第三者委員会を設置したうえで、疑義の全容解明に努めてまいりました。 本日、第三者委員会より上記の調査結果が記載された「調査報告書」を受領いたしましたので、その内容について別紙のとおり公表いたします。 株主やお取引先を始め、当社と関わりのある全てのステークホルダーの皆さま方には、多大なるご迷惑とご心配をおかけいたしておりますことを、改めて深く申し上げます。 記 1.第三者委員会の調査結果について 第三者委員会の調査結果につきましては、別紙の「調査報告書」をご覧ください。 2.今後の対応について 当社は、今回の調査報告書の内容を真摯に受け止め、適切に対応を進めていくとともに、再発防止について改めて検討し、コーポレートガバナンス体制の強化を図って参ります。 なお、具体的な対応ならびに再発防止策の内容等については、決まり次第、速やかに開示いたします。 以上 (別紙) 目 次 第1 本件調査の概要………………………………………………………………………………………………. 4 1 当委員会の設置に係る経緯 ……………………………………………………………………………… 4 2 当委員会の構成 ……………………………………………………………………………………………… 4 (1) 委員長及び委員 …………………………………………………………………………………….. 5 (2) 補助員 …………………………………………………………………………………………………. 5 3 本件調査の調査事項 ……………………………………………………………………………………….. 5 (1) 対象会社から委嘱された調査事項 ………………………………………………………….. 5 (2) 当委員会が必要と認めた調査事項等 ……………………………………………………….. 5 4 本件調査に係る調査期間 …………………………………………………………………………………. 6 (1) 調査期間………………………………………………………………………………………………. 6 (2) 当委員会における調査期間を伸長した理由 ……………………………………………… 6 5 本件調査に係る調査方法 …………………………………………………………………………………. 6 (1) 関係資料の確認・精査 …………………………………………………………………………… 6 (2) 関係者に対するインタビュー等の実施 ……………………………………………………. 7 (3) 対象会社グループの役職員向けアンケートの実施 ……………………………………. 8 (4) 当委員会を情報提供窓口とするホットラインの設置 ………………………………… 9 6 本件調査及び本件報告の前提事項又は留保事項 ………………………………………………… 9 (1) 当委員会の事実認定の程度 ……………………………………………………………………. 9 (2) 報告書の種類 ……………………………………………………………………………………… 10 (3) 本件報告書における個々の行為の記載について …………………………………….. 10 第2 本件事案及び類似事案等に係る当委員会の認定 ………………………………………………. 10 1 架空取引等 …………………………………………………………………………………………………… 10 (1) Y社との取引(疑義事案①) ……………………………………………………………….. 10 (2) 取引先システム会社W名義での取引 ……………………………………………………… 15 (3) コンサルティング会社との取引 ……………………………………………………………. 18 (4) 小口現金の不正流出 ……………………………………………………………………………. 19 2 不適切な収益認識等(疑義事案②) ……………………………………………………………….. 19 (1) 取引先企業Zとの取引に関する留保事項 ………………………………………………. 19 (2) 取引の概要 …………………………………………………………………………………………. 19 (3) 取引の実態、手口 ……………………………………………………………………………….. 20 (4) 関与者 ……………………………………………………………………………………………….. 21 (5) 動機 …………………………………………………………………………………………………… 22 3 不適切な費用の繰延べ(疑義事案③) ……………………………………………………………. 22 (1) 事案の概要 …………………………………………………………………………………………. 22 (2) 関与者、手口及び動機 …………………………………………………………………………. 22 2 4 その他の不適切な会計処理(旅費交通費等の不適切な会計処理) …………………….. 22 (1) 事案の概要 …………………………………………………………………………………………. 22 (2) 出張の実態 …………………………………………………………………………………………. 23 (3) 動機 …………………………………………………………………………………………………… 23 (4) 手口及び関与者 …………………………………………………………………………………… 23 5 類似事案等 …………………………………………………………………………………………………… 24 (1) 類似事案の検証① ……………………………………………………………………………….. 24 (2) 類似事案の検証② ……………………………………………………………………………….. 25 (3) 類似事案の検証③ ……………………………………………………………………………….. 25 (4) 判明した類似事案 ……………………………………………………………………………….. 25 第3 対象会社の財務諸表等への影響 ……………………………………………………………………… 27 1 不適切な会計処理の内容 ……………………………………………………………………………….. 27 (1) 疑義事案①の会計処理の修正 ……………………………………………………………….. 27 (2) 疑義事案②の会計処理の修正 ……………………………………………………………….. 27 (3) 疑義事案③の会計処理の修正 ……………………………………………………………….. 27 (4) 類似事案の検証その他の会計処理の修正 ………………………………………………. 28 2 対象会社の財務諸表への影響額 ……………………………………………………………………… 28 第4 本件事案の原因分析に関する調査の結果 ………………………………………………………… 29 1 対象会社のコンプライアンス体制の現状及び課題 ……………………………………………. 29 (1) 対象会社におけるコンプライアンス体制の概要 …………………………………….. 29 (2) 取締役会及び監査役会 …………………………………………………………………………. 30 (3) 会計監査人 …………………………………………………………………………………………. 30 (4) 内部通報窓口制度 ……………………………………………………………………………….. 30 (5) 本件事案の原因・対象会社のコンプライアンス体制の課題 …………………….. 30 2 対象会社グループの役職員向けアンケートの結果 ……………………………………………. 34 (1) アンケートの実施の概要 ……………………………………………………………………… 34 (2) アンケート結果の分析 …………………………………………………………………………. 34 第5 再発防止に向けた提言 …………………………………………………………………………………… 35 1 コンプライアンス意識の向上 …………………………………………………………………………. 35 2 内部統制の整備・強化…………………………………………………………………………………… 36 3 社外取締役・社外監査役の選定基準の策定 ……………………………………………………… 36 4 監査の実効化 ……………………………………………………………………………………………….. 37 (1) 監査役による監査の実効化 ………………………………………………………………….. 37 (2) 内部監査室の強化 ……………………………………………………………………………….. 38 (3) 三様監査の実施 …………………………………………………………………………………… 38 5 情報収集体制の強化と工夫 ……………………………………………………………………………. 38 3 第1 本件調査の概要 1 当委員会の設置に係る経緯 アジャイルメディア・ネットワーク株式会社(以下、「対象会社」という。)は、元役員による不正な資金流用が行われた疑いがあるとして、その疑義を調査するための第三者委員会(以下、「前回委員会」という。)を2021年5月17日に設置し、同年6月18日にその調査結果報告書(同月16日付、以下「前回報告書」という。)を受領し、同月21日付でその報告書の内容を公表している。 ところが、対象会社は、前回委員会による調査結果の公表後、外部の公的機関からの指摘を受けて、対象会社内部で調査したところ、2022年1月21日、前回委員会の調査では発覚しなかった不適切な会計処理が存在することを新たに認識するに至った。 そのため、対象会社は、改めて、外部専門家による第三者委員会を立ち上げて不適切な会計処理の疑義について調査を進めていくことを決定し、外部専門家の人選を開始した。 そして、対象会社は、2022年2月1日の取締役会において、不適切な会計処理の疑義として「2018年12月期から2019年12月期に至るまでの期間において、台湾の取引先から対象会社台湾子会社を経由して対象会社に入金され、売上として計上されていた約4500万円について、実際には対象会社または対象会社台湾子会社から役務の提供を行っていた事実が確認できなかったにも関わらず、売上として計上されていたという疑義」(以下、「疑義事案①」という。)、「同期間において、国内の取引先への売上約500万円が本来計上すべき期とは異なる期に計上されていたという疑義」(以下、「疑義事案②」という。)、「広告宣伝費等の費用約300万円が、本来計上すべき期とは異なる期に計上されていたという疑義」(以下、「疑義事案③」という。疑義事案①ないし③を合わせて「本件事案」という。)を特定した上で、当委員会を設置した。そして、同日、第三者委員会を設置したことを公表した。 2 当委員会の構成 当委員会は、下記(1)の委員長及び委員により構成する。 また、当委員会は、下記(2)の補助員を選任し、本件調査を補助させた。 当委員会の委員長、委員及び補助員は、いずれも過去に対象会社から業務を受任したことはなく、対象会社とは何ら利害関係を有しない。 4 (1) 委員長及び委員 委員長 氏原 隆弘(弁護士/あたご法律事務所) 委 員 萩原 園子(弁護士/渡部総合法律事務所) 委 員 松澤 公貴(公認会計士・公認不正検査士/松澤綜合会計事務所) (2) 補助員 徳重 雅也(弁護士/あたご法律事務所) 松﨑 大樹(弁護士/あたご法律事務所) その他公認会計士5名 3 本件調査の調査事項 (1) 対象会社から委嘱された調査事項 ① 本件事案にかかる事実関係調査及び原因究明 ② 本件事案以外で元役員が関与した過去の取引の調査 ③ 本件事案の調査結果に基づく、財務諸表への影響についての試算 ④ 再発防止策の検討・提言 ⑤ その他、当委員会が必要と認めた事項 (2) 当委員会が必要と認めた調査事項等 ① 調査対象期間(拡大) 本件調査開始当初は、前回委員会の調査結果を踏まえ、元役員による資金流用ならびに不適切な会計処理が行われていた期間として2018年12月期から2020年12月期までが想定されており、対象会社から要望された調査対象期間も同期間の3期分(3か年分)ということであった。 しかし、本件調査を進めていく過程において、2017年12月期以前にも不適切な会計処理がなされている可能性が認められたこと、元役員が辞任した2021年内においても不適切な会計処理が行われていた可能性があることから、対象期間を2か年分遡るとともに、2021年9月期までを対象期間に加えることとした。 その結果、本件調査では、不適切な会計処理の有無についての調査対象期間を2016年12月期から2021年9月期までと設定して調査を行ったものである。 ② 調査対象とすべき行為主体(拡大) 当委員会としては、組織的関与の有無を確認する必要があると考え、調5 査の対象となる行為について、元役員の行為のみを対象とするのではなく、本件事案について関与した可能性がある者の有無の検討を行い、関与の可能性がある者がいる場合には、対象会社の在職の有無や所属の有無にかかわらず、その者の行為を含めて調査の対象とした。 ③ 調査対象とすべき行為の類型(拡大) 企業等が株主等のステークホルダーに対して説明責任を果たすという当委員会の設置目的の観点から、当委員会としては、本件事案のみならず、本件事案に類似する事案(以下「類似事案」という。)の有無等を検討する必要があると考え、上記調査対象期間内における類似事案についても調査を実施することとした。 4 本件調査に係る調査期間 (1) 調査期間 2022年2月1日(火)から同年4月11日(月)まで (2) 当委員会における調査期間を伸長した理由 本件調査の開始時において、対象会社は、調査期間を2か月間と設定し、2022年3月末日までの調査完了を要望した。 しかし、上記3(2)記載の通り、本件調査を進めていく中で調査対象期間を約3か年分拡大することが相当であると判断した。また、本件調査開始後の2022年2月13日に元役員が逮捕され身柄が拘束されるに至ったこと、元役員の協力者であった元経理担当者は既に退職していたこと、その両名が元役員の刑事被疑事件の捜査に応じなければならない状況にあったことなどから当委員会によるインタビューには相当の時間的場所的な制約が課されていたこと、その上、前回調査前のみならず、前回調査後において電子データが削除された形跡が認められたことなどから、不適切な会計処理の特定に難航した。 このような事情から、当初調査期間として設定していた2か月間を伸長せざるを得なくなった。 5 本件調査に係る調査方法 (1) 関係資料の確認・精査 当委員会は、本件調査のため、前回委員会により確認精査された資料、前回委員会がデジタルフォレンジックにより保全したデータ(これらの資料・保全データについては、前回報告書6~9頁までを参照)に加えて、6 以下の資料を確認・精査した。なお、本件報告書では、資料の詳細についての表示は割愛する。 ・本件事案に関する経理資料 ・取締役会議事録・資料 ・経営会議資料 ・事業計画 ・連結子会社関係資料 ・WEB会議システムの利用履歴 管理アカウントを操作する方法で確認した。 ・代表取締役のPC ・WEBメール 対象会社内においてPCを直接操作する方法で確認した。 複数名につきアカウントを共有する方法によって確認した。 ・社内コミュニケーションツールとしてのグループウェア 複数名につきアカウントを共有する方法によって確認した。 ・その他関連する資料 (2) 関係者に対するインタビュー等の実施 ① 概要 当委員会は、以下の関係者32名について、面談、WEB会議システム又は電話会議により、インタビュー等を実施した。インタビュー等の実施にかかる総時間は、約56時間である。但し、これらの者以外にも対象会社の従業員に対して、対象会社における会計処理の方法や認識等を適宜確認するためのインタビューを相当回数にわたり実施している。 ・対象会社の役員5名 ・対象会社の元役員2名 ・対象会社の従業員17名 ・対象会社の元従業員5名 ・対象会社以外の者3名 ② 対象者 代表取締役A 元取締役B 取締役C(元技術部部長) 社外取締役D 7 インタビューを実施した者のうち、主たる対象者は、以下の通りである。 社外監査役E 元社外監査役F 従業員G(マーケティング部部長) 従業員H(元対象会社台湾子会社担当職員) 元従業員I(元営業部副部長) 元従業員J(元管理部部長) 従業員K(管理部部長) 元従業員L(元経理職員) 従業員M(経理職員) 従業員N(経理職員) 元従業員O(元経理職員) 元従業員P(営業職員) 取引先システム会社W従業員Q 対象会社台湾子会社委託先会計事務所X担当者R 取引先台湾企業Y関連会社代表S ③ インタビューできなかった対象者 取引先台湾企業Y社の責任者T 取引先台湾企業Y(以下「Y社」という。)の責任者Tは、本件事案に関与した可能性が強く疑われたことから、インタビューに応じてもらうよう申し入れたが、インタビューを実施することができなかった。 (3) 対象会社グループの役職員向けアンケートの実施 当委員会は、本件事案及び類似事案の存在等を把握する目的で、対象会社グループの役職員に対するアンケートを実施した。実施方法は以下の通りである。 ① 実施方式 匿名性担保を確約した上での記名式アンケートとした。 なお、無記名での回答も可能とした。 全従業員69名(対象会社グループの全ての役職員) 対象会社を通じて、対象会社グループの役職員に対し、当委員会を発信者とするアンケートの告知文書を配布し、アンケート回答への協力を求め なお、上記の告知文書においては、回答内容は当委員会限りとして調査8 ② 対象者 ③ 告知方法 た。 結果の報告にあたっては匿名性を確保すること及び回答者が回答内容を理由に不利益な取り扱いを受けることがないことなどを付言している。 ④ アンケート期間 2022年2月9日から2月14日20時00分まで。 ⑤ 回答数 合計54件の回答があった。 上記の回答数は、アンケート対象者69名の約78%に該当する。 (4) 当委員会を情報提供窓口とするホットラインの設置 当委員会の専用メールアドレスを設けて、当該メールアドレス及び当 委員会の連絡先(電話番号及びFAX番号)を、上記(3)のアンケートの実施の告知とともに告知し、本件事案や不適切な会計処理に関する具体的な事実関係や対象会社グループにおける問題点などを含む情報の提供を求めた。 6 本件調査及び本件報告の前提事項又は留保事項 (1) 当委員会の事実認定の程度 当委員会は、前記調査期間内に必要と判断した調査を行ったものであるが、一定の時間的制約のなかで、強制的な調査権限に基づかない調査として行われたものであり、関係者(既に退職している元役員や元従業員、社外関係者を含む)の任意の協力を前提としている。また、本件調査は当委員会が独自で収集した関係資料等にも依拠しているが、原則として重要な情報や資料は対象会社から提供を受けたものに依拠している。 また、本件調査では、証拠となりうる電子データが複数削除され、それらのほとんどが復旧できないことから、重要な事実関係を裏付ける直接的な証拠となりうる関係者間の連絡内容等を明確に把握することに困難な部分が存在した。そのため、当委員会としては、削除された電子データで本来裏付けられるはずの事実関係に関しては、他の資料やインタビューで得られた情報等のみに依拠せざるを得なかった。 本件調査は、以上のような制約下での調査であるため、調査結果が完全であることを保証するものではなく、当委員会が収集した資料や情報以外の関係資料等が存在し、又はインタビューで得られた情報等が事実と異なるものである可能性を否定できない。そのため、そのような関係資料や情報等が存在し、新たな事実関係が判明した場合には、本件調査の事実認定が変更される可能性があることを留保する。 本件調査は、法的責任追及を目的とするものではなく、そのような目的 9 で本件報告書が使用されることは想定していない。そのため、当委員会の事実認定については、法律上の証明による厳格な事実認定をもってなし得る事実認定のみならず、疑いの程度を明示した灰色認定や疫学的認定により心証を形成した事実認定※ 1が含まれていることをあらかじめ留保する。 (2) 報告書の種類 当委員会が本件調査の報告にあたり作成した報告書は、公表を予定している本件報告書のみである。対象会社の一部メンバーのみが閲覧できるいわゆる詳細版は作成していない。 但し、本件報告書を提出するに際して、対象会社から、本件報告書に関する質問を受け、それに対して当委員会が説明を行う機会を設定した。 (3) 本件報告書における個々の行為の記載について 当委員会は、各調査対象に関する行為について、多角的な方法及び視点から調査し、一定の事実認定及び評価を行っているが、対象となった個々の行為の詳細及びその事実認定の根拠等については、当委員会が記載を必要と判断した場合を除き、本件報告書には記載しない。 第2 本件事案及び類似事案等に係る当委員会の認定 当委員会が本件調査によって認定した本件事案及びその類似事案等に関する事実は、次の通りである。 1 架空取引等 (1) Y社との取引(疑義事案①) ① Y社の取引に関する概要 対象会社では、Y社との取引に関し、2018年12月31日付で2018年12月期に納品(役務提供)があったとしてY社各支店に対する合計約4500万円を売上として計上した。しかし、当該取引は、実際には納品(役務提供)を伴わない架空取引であった。この取引に関する対象会社の売上は、納品(役務提供)に対する対価としてY社から支払われたものではなく、対象会社の小口現金から現金を引き出し、それを台湾に持ち込んでY社の責任者Tを通じて同社名義で対象会社台湾子会社の銀行口座に振り込ませ、それを対象会社における売上金の回収と偽装したものであった。 なお、Y社は、台湾において、複数の支店を設置して美容クリニックを営む会社である。 ※1 日弁連ガイドライン第 2 部第 1.1.(2)②参照 10 資金循環図式 小口現金として流出 対象会社元取締役B売上金として回収 架空取引 対象会社台湾子会社 現金 元取締役B・代表取締役A・従業員Hら取引先台湾企業Y名Y社T現金・台湾持込み 現金 送金 ② 取引の実態の有無 Y社との取引に関しては、対象会社として関与した元取締役B及び従業員Hは、納品(役務提供)をしていない実態のない取引であったと説明している。また、対象会社の役職員らは、いずれもY社に対する実際の納品(役務提供)内容を説明することができない。そのうえ、Y社との取引に関与していた者(後記)でさえ、Y社の担当者名や連絡先を知らない旨説明しており、対象会社として、Y社の担当者や連絡先を把握しておらず、Y社に所属する関係者(Tを除く)とやり取りをした形跡も見当たらない。この点、Tについては、本件調査によって、Y社に所属している者であることが判明しているが、Tの存在を知る対象会社の役職員らは、Tのことを「台湾在住の裕福な実業家であり、好意で、対象会社にY社を紹介し、対象会社とY社との間の連絡窓口の役割を担ってくれている人」だと説明しており、TがY社に所属していることを把握していなかった。 また、Y社に対する納品(役務提供)の痕跡としては、デジタル資料(更新日時2019年1月29日)の他は見当たらない。そして、同資料にはY社の各支店利用者へのヒアリング結果等が日本語で記載されているが、それをY社に提供するために中国語に翻訳した形跡もなく、また、実際にヒアリングを実施した事実も認められない。 さらに、取引に関して作成された書類を見ても、Y社各支店とやりとりをしたとされる見積書や発注書の作成日付は、Y社の責任者TからY社を紹介されるよりも前の日付であり、それらの日付においてY社に対して実際に見積や発注が行われたとは考えられない。その上、受注前にプレゼンテーション(以下「プレゼン」という。)を行ったとされる日(以下「プレゼン実施日」という。)、納品確認書における納品日、及び上記役務提供の痕跡たる上記資料の表題記載の日付が同一日として記載されている。つま11 り、プレゼン実施日、納品日及び役務提供日が同一日となっているなど、それらの資料の日付は「プレゼンで対象会社が提供する役務の内容や納品物等の説明を行った上で受注し、その後納品する」という通常の取引経過として不自然である。 その他、納品確認書における納品日(プレゼン実施日と同一日)以降に、Y社宛てに再提案するためのプレゼン資料が作成されていること、プレゼン実施日から納品確認書等の取付けに至る期間がわずか4日間に過ぎず、その間に数千万円の売上に相当する役務を提供したとは考え難いこと、2019年には、会計監査人からY社との取引実態確認等のために提出を求められた残高確認状や分割払いの覚書が偽造されていたという事情もある(後期「ⅴ 手口」参照)。 これらの事実関係からすれば、対象会社とY社との取引は、実際には納品(役務提供)を伴わない架空取引であり、その売上は架空であったと認められる。 ③ 関与者及び架空取引の認識を有していた者 対象会社内では、代表取締役A、元取締役Bは架空取引を行ったことに関与していた者と認められる。その他、架空取引の売上が計上された後に、架空取引に関与し、それが架空であると発覚しないようにしていた者として、従業員H、元従業員L、架空取引であることを知りながら、対象会社内においてそれを是正しようとしなかった者として、社外監査役E、元社外監査役Fを挙げることができる。また、社外協力者としてはY社の責任者Tが関与していた。 ⅰ 代表取締役A 代表取締役Aは、当委員会の調査開始時から終始一貫して、Y社との取引に関する書類作成やプレゼン実施など、同取引に関与したこと自体は認めつつも、それが納品(役務提供)を伴わない架空取引であるとは認識していなかったと述べている。しかし、代表取締役Aの台湾への渡航歴及び台湾での行動、Y社の責任者T宛に送信したメールの内容及び送信時期、代表取締役AのPCに保存されていたデータや資料の内容等からすれば、代表取締役AがY社との取引の売上計上前にY社への納品(役務提供)がないことを認識し、そのような認識のもと、Y社との架空取引に関与していたと認定することが相当である。 ⅱ 元取締役B、従業員H、元従業員L 12 元取締役Bは、当初から架空取引に関与していた。そして、架空取引の売上金の回収等について、従業員Hや元従業員Lに対し、会計監査人への提出書類の偽造等を指示し、それを行わせることで架空取引の発覚を免れようとするなど、Y社との架空取引について中心的な役割を担っていたものである。 従業員Hは、Y社との架空取引の売上計上後に代表取締役Aや元取締役Bと行動を共にして、それが架空取引である疑いを抱き、元取締役Bからの説明を受け架空取引であることを知るに至ったものである。そして、元取締役Bの指示の下、架空取引が発覚しないよう売上金の回収等を行っていた。 ⅲ 社外監査役E 社外監査役Eは、Y社との架空取引に当初から関与していた者ではない が、2020年に他の案件(後述する取引先システム会社Wとの取引)に関する疑義を元取締役Bに問いただそうとした際、元取締役BからY社との取引が架空であることの告白を受け、それを知るに至っていたものである。 ⅳ 元社外監査役F 元社外監査役Fは、元取締役Bの不正行為が発覚した後の2021年5 月頃、元取締役Bから、台湾で架空取引を行っていた旨の話を聞いた。そして、それを代表取締役Aに対して仄めかすとともに、前回委員会に対しても、台湾における架空取引の存在を伝えようとしたものである。しかし、同氏が実際に前回委員会に対して説明を行ったのは、前回委員会の調査期間終了後のことであった。 ⅴ Y社の責任者T Y社関連会社の代表者Sの説明によれば、Y社の責任者Tは、Y社の経営者ではないが、同社関連会社とY社に所属する、プロジェクト責任者という立場にあるものである。同氏は、架空取引について当初からY社側で関与し、代表取締役A、元取締役B及び従業員Hらから現金を受け取ると、上記Y社関連会社に対して、当該現金をY社名義で対象会社台湾子会社に送金するよう指示し、送金させていたものである。 ④ 動機 認される。 代表取締役A、元取締役Bとしては、2018年12月期の業績予想の修正(下方修正)を避けることを主たる目的として架空取引を行ったものと推対象会社は、2018年に上場し、同年上半期は業績が良好であり、業績13 予想を上回ることが公表されていた(平成30年8月10日付適時開示)。そして、同年9月頃にも対外的には業績が良好であることをアピールし対象会社への出資を呼びかけていた。しかし、同年下半期に入ると業績が振るわず、代表取締役Aが他の役職員に対して「このままでは間違いなく下方修正をださなければならない状況にあるが、下方修正は避けたい」との考えを伝え、業績改善が役員らの検討事項となっていたが、その後も業績改善は芳しくなく、同年12月開催の取締役会で示された2018年通期累計(見込み)は、売上高、営業損益、経常損益、当期純損益比の予実比がいずれも業績予想の修正(下方修正)をしなければならないものであった。 そのような状況において、Y社との取引は、代表取締役Aと元取締役Bが関与して行われたものであり、実際に2018年12月期の決算を確定させるにあたっては、Y社との取引額として幾らを売上に計上すべきかどうかを元取締役Bが検討していた。その結果、架空取引に関する売上を計上した後の各決算数値(売上高、営業損益、経常損益、当期純損益比の予実比)が業績予想の修正(下方修正)基準を僅かに上回るものとなっている。他方で、Y社との架空取引自体に関しては、元取締役Bを除く関与者が対象会社の資金から不正な利益を得ていたという事情は見あたらない(元取締役Bが台湾に個人口座を開設したことや、Y社との架空取引と同時期に他の不正行為を行っていたことなどからすれば、Y社との架空取引に乗じて対象会社の資金を着服していた可能性がある。)。これらの事情からすれば、代表取締役A及び元取締役Bの主たる目的は対象会社の業績予想の修正(下方修正)の回避にあったと推認することが相当である。 また、元取締役Bとしては、Y社との架空取引を行う前から、他の架空取引を行い対象会社から不正に資金を流出させるとともに、対象会社の小口現金から不正に資金を引き出し、それらを着服していた。そのため、元取締役Bとしては、代表取締役Aを架空取引に関与させ、代表取締役Aに対しては架空の売上金の回収のためと装うことによって、代表取締役Aからの不自然な会計処理(元取締役Bによる他の不正行為による会計処理)に関する追及を免れるとともに、対象会社の資金を不正に流出させやすくなることを期待していた面があったことも推測される。 ⑤ 手口 架空取引の成立を裏付ける証憑(見積書、発注書、納品確認書等)に関しては、Y社の責任者Tを通じて、成立が真正な書類として作成され、その証憑に基づき、対象会社において架空取引による売上が計上されていた。 その後、会計監査人が残高確認を実施するに際して、元取締役Bらは残高14 確認状の送付先を対象会社台湾子会社委託先会計事務所X の所在地に指定し、そこに残高確認状送付させ、それを入手した従業員Hが偽造した残高確認状を会計監査人に対して提出した。 架空取引の売上金の回収については、元取締役Bにおいて対象会社の小口現金から現金を引き出し、それを現金として代表取締役A、元取締役B、従業員Hらが台湾に持ち込み、Y社の責任者Tに交付し、それをY社名義で対象会社台湾子会社の銀行口座に送金させたものである。 なお、対象会社の小口現金からの現金引き出しについては、前回委員会において認定したのと同様の手法によって、元取締役Bが自ら着服する資金の引き出しと併せて行っていたものである(前回報告書13~16頁参照)。 (2) 取引先システム会社W名義での取引 ① 取引先システム会社Wとの架空取引に関する概要 取引先システム会社W及びその子会社(以下、あわせて「W社」という。)との間の取引が架空発注であったことに関する事実関係については、前回委員会が認定したとおりである(前回報告書15~18頁等、以下、W社との取引で納品(役務提供)を伴わない取引については「架空発注」という。)。 架空発注としては、W社の関与のもとに行われたものと、同社の関与なく同社の領収書が偽造されたものがある。これらW社名義で行われた架空発注は以下の通りである。 W社関与の架空発注 送金日 支払先 送金金額(円) 2018 年 12 月 17 日 2019 年 1 月 7 日 2019 年 2 月 14 日 2019 年 3 月 12 日 2019 年 4 月 22 日 2019 年 5 月 24 日 2019 年 6 月 27 日 2019 年 7 月 2 日 2019 年 7 月 9 日 W社 W社 W社 W社 W社 W社 W社 W社 W社 合計 15 11,880,000 12,960,000 5,508,000 5,508,000 5,454,000 7,074,000 45,360,000 30,240,000 7,074,000 131,058,000 偽造領収書を用いた架空発注 出金日 支払先 金額(円) 2019 年 12 月 17 日 元取締役B 2020 年 3 月 9 日 元取締役B 2020 年 6 月 9 日 元取締役B 2020 年 8 月 25 日 元取締役B 2020 年 9 月 30 日 元取締役B 2021 年 3 月 25 日 元取締役B 51,700,000 16,280,000 3,850,000 15,400,000 4,400,000 36,960,000 合計 128,590,000 ② 取引の実態の有無及び手口 架空発注が納品(役務提供)を伴わないものであったこと、及び架空発注の手口については、前回委員会認定の通りである(前回報告書15~18頁等)。 ③ 関与者及び架空発注の認識を有していた者 対象会社内では、元取締役Bが架空発注を主導したものであると認めら れる。その他、架空発注に積極的に関与した者として元従業員L、架空発注後に、架空発注である可能性を疑いながら、対象会社内においてそれを是正しようとしなかった者として代表取締役A、社外監査役E、他の不適切な行為によって架空発注であることの発覚を免れさせた者として元従業員Jを挙げることができる。また、社外協力者としてW社の代表取締役U及び同社従業員Qが関与していた。 ⅰ 元取締役B、元従業員L 元取締役Bは、2018年からW社への架空発注を行ったものであり、その後の架空発注についても主導的に関与していた者である。元従業員Lも元取締役Bの指示を受け、あるいは自ら偽造の領収書等を作成するなどしていた者であり、両名が架空発注を主導していた。 ⅱ 代表取締役A 代表取締役Aは、当委員会の調査開始時から終始一貫して架空発注への関与や架空発注の認識を否定している。しかし、会計監査人から第12期期末及び第13期期末の監査覚書(マネジメントレター、2019年2月1516 日付及び2020年3月24日付)において、W社との取引の不自然性を強く指摘されていること、そして2018年内のW社に対する前払費用としての支出や、それによって構築されるはずのシステムが2019年期末に全額減損処理されたことに関する代表取締役Aの対応状況等からすれば、代表取締役AにおいてW社との取引の異常性を認識しなかったということは通常想定し得ない。他方で、既述のとおり、Y社との架空取引に関与した代表取締役Aとしては、同取引の売上金の回収を装うために、対象会社から何らかの名目で資金を捻出し、それをY社からの売上金に充てなければならない状況にあったことを認識していたと推認される。 これらの状況からすれば、代表取締役Aとしては、少なくとも、2019年2月頃以降には、W社との取引が納品(役務提供)を伴わない架空発注である可能性が高いことを認識していたと強く推認される。 ⅲ 取締役C 2020年2月頃、当時システム開発担当の責任者(技術部部長)であった取締役Cは、元取締役Bから、会計監査人に対してW社への発注内容等を説明するにあたり、口裏合わせをして欲しいとの依頼を受けた。取締役Cは、この時の元取締役Bからの話を聞いて、初めてW社という会社が存在し、対象会社がW社に対してシステム開発を発注したことになっていることを知り、当該発注について強い違和感を覚え、架空発注の疑いを抱いた。そこで、取締役Cは、社外監査役Eに対して、元取締役Bから、W社への発注に関して口裏合わせをするよう依頼された旨を伝え、社外監査役Eにその対応を委ねた。 ⅳ 社外監査役E 社外監査役Eは、上記ⅲ記載の通り、2020年2月頃、取締役Cから、W社への発注に関する口裏合わせの依頼を受けた旨の報告を受け、当該発注の実態の有無について疑義を抱き、その後、W社への発注について確認するために元取締役Bと面談することになった。この面談における元取締役Bからの説明は、Y社との取引が架空であるというものであったが、W社との取引実態に言及した明確な説明はなかった。もっとも、この面談はW社への発注(取引実態)が問題になっていたことから、W社への発注に関する事実確認のために設けられたものであり、そのことは社外監査役Eと元取締役Bとの共通認識になっていた。そのため、社外監査役Eは、Y社との取引が架空であるという話を聞き、それがW社と関連していること、つまり、W社との取引においても不正な行為(架空発注を含む)が行われている可能性が高い 17 という認識を有するに至った。しかし、Y社との取引及びW社への発注のいずれについても、その後の対応を元取締役Bに委ねただけであり、その他具体的な是正措置を行うための行動を採っていなかった。 Ⅴ 元従業員J 元従業員JがW社への発注が架空であったと認識していたことを直接的に裏付ける具体的な証拠はない。もっとも、元従業員Jは、元取締役Bの要請に従い、取締役会資料を改ざんしたり、あるいは対象会社において預かり保管していた役員の印鑑を勝手に利用して取締役会議事録を偽造したりするなどして、W社への発注やソフトウェア関連の会計処理等に関する取締役会での報告や決議内容を偽って会計監査人に報告していたものである。 ④ 動機 架空発注に関する主体的関与者は元取締役Bであり、その動機 は主として自らの事業資金、飲食、生活資金として使用するためということにあった。この点については、前回調査の認定と同様である。 もっとも、前記第2、1(1)のとおり、Y社との架空取引の発覚を免れるためには、架空計上した売上に充当するための資金を捻出する必要があった。そのため、元取締役Bは、Y社との架空取引による売上金に充当する目的も持っていた可能性が高い。特に、偽造領収書を用いて対象会社の小口現金から流出させた資金については、その一部がY社との架空取引の売上金に充当するための資金として用いられた可能性が高い。 (3) コンサルティング会社との取引 ① 取引の概要 コンサルティング会社への支払いが不適切であり、その支払いを利用して元取締役Bが不正な利益を得ていたことについては、前回委員会が認定したとおりである(前回報告書18~19頁)。 ② 取引の実態、動機及び手口 コンサルティング会社への支払いは台湾関係での事業に従事する2名の人材を雇用する際の人材紹介料とされていた。しかし、人材紹介料の支払対象となった2名は、対象会社がコンサルティング会社と人材紹介契約を締結する前から、対象会社の業務を受けていたものであり、人材紹介料の支払いは本来不必要なものであり、その支払いは不適切であった。動機と手口については、前回報告書記載の通りである。 18 ③ 関与者及び不適切な取引の認識を有していた者 対象会社内では、元取締役Bがコンサルティング会社との取引を主導したものであると認められる。その他、元従業員Lは不必要な取引であることを知りながら関与していた者である。 (4) 小口現金の不正流出 元取締役Bが対象会社から不正に資金を流出させるために、小口現金 による経費精算を利用していたことに関しては、前回委員会が認定したとおりである(前回報告書13~15頁等)。 もっとも、不正行為の始期については、事業関連性のない資金を不正に取得していたという意味では、その始期は2016年2月頃からであった。 2 不適切な収益認識等(疑義事案②) (1) 取引先企業Zとの取引に関する留保事項 疑義事案②である取引先企業Z(以下「Z社」という。)との取引に関しては、主たる関与者である元従業員Iが既に退職しているため、元従業員I に関する対象会社内のWEBメールが削除され、かつ、グループウェアも一部を除き残されていない。また、元従業員Iは、当委員会によるWEB会議システムを通じたインタビューには1回応じたものの、その後のインタビューや情報提供には応じていない。そのため、当委員会としての認定は、主要な事実に関し、元従業員I以外の関係者へのインタビューや対象会社に残された資料等に依拠せざるを得なかったものである。当委員会としてのZ社との取引に関する認定は、上記の手法で心証形成に努めた結果であることを留保する。 (2) 取引の概要 対象会社は、2018年5月頃、取引先であるZ社のWEBサイトリニューアル業務の発注を受けることとなり、当初は同年11月頃にWEBサイトをリニューアルしてリリースすることが予定されていた。なお、この案件の担当及び取引先との窓口となっていたのは元従業員の I であった。 そして、同年11月頃までの間の打合せでは、初期費用として約450万円、その後の運用費用として月46万円(年間552万円)の合計約1000万円(税抜)の売上を予定していた。しかし、Z社からセキュリティ上の機能不備等を指摘されるなどしたことから、同年11月頃までに予定していた工程を終えることができず、WEBサイトのリニューアルは完 19 了しなかったが、その後、翌2019年3月頃までにWEBサイトのリニューアル(役務提供・納品)が完了した。 しかし、2018年11月には、いまだ役務提供(納品)が完了していないにもかかわらず、元従業員Iは元従業員Pに指示して、請求書を取引先に送付させていた。そして、対象会社においては、同年11月には約500万円、翌12月には46万円の売上を計上し、その後も2019年3月まで毎月46万円の運用費用相当額を売上として計上するなど、当初の予定通りの会計処理が行われていた(いずれも税抜金額)。 そのような状況において、2019年3月の役務提供(納品)完了後に、Z社の担当者から対象会社に対する問合せがあったことを切っ掛けに、2018年11月から2019年3月までの請求書が発行されZ社に送付されていたものの、元従業員Iが偽名を使って、送付済みの請求書を破棄するようZ社に対して要請していたこと、及び元従業員 I が、対象会社の決裁を得ないで同氏の独断でZ社に対して値引きの約束をしていたことが発覚し、また、それまでの請求に対しZ社からの入金がないという事実も対象会社内で共有されることになった。 その後、対象会社とZ社との協議が行われ、2019年5月には、当初予定の金額から値引きした額で合意し、その支払いを受けることとなった。 他方、上記の経緯について事実に基づいた会計処理を行う場合には2018年の決算を訂正しなければならないことから、元取締役B、元従業員J、元従業員Lらの協議によって、上記の経緯とは異なる経緯、すなわち、「対象会社からの役務提供(納品)は2018年12月中に行われた。その後2019年1月にZ社から、当初の要件とは異なる部分の修正依頼を受け、それに対応した結果、リリース時期が当初の予定より大幅に遅れ、値引きするに至った」という報告が会計監査人に対して行われた。その結果、2019年1月分以降の売上だけを訂正し、2018年決算の訂正をすることをしなかった。 (3) 取引の実態、手口 Z社との取引は、実際に役務提供がなされたものであり、取引の実態を伴うものであった。しかし、2018年11月のリリース予定までに受注した業務を終えることができず、同年12月末頃には一旦外部に公開できる状態になっていた可能性があるものの、その状態でもZ社との打合せによって取り決められていた仕様の基本的な要素(セキュリティ上の問題を含む)を満たすことはできておらず、予定していた工程も終えられていなかった。そのため、本来であれば、2018年内における役務提供の完了 20 (納品)を前提とした売上の計上は不適切なものであった。 しかし、元従業員Iは、事情を知らない元従業員Pに対して指示して請求書を発行させるとともに、Z社に対しては独断で値引きすることを約束したうえで、偽名を使用して、後日正式な請求書を新たに発行するため、対象会社から送付されてきている請求書は破棄してほしいとZ社に依頼するなど、2018年内に役務提供(納品)を完了していないことが対象会社に判明しないようにしていた。 他方で、元取締役B、元従業員J、元従業員Lらは、対象会社内の関与者から事情説明を受けた結果、本来であれば2018年の決算を訂正しなければならないこと(2019年12月期で計上すべきこと)を認識したが、それを回避するために、事実と異なる経緯を記した報告書等を作成し、その内容を会計監査人に説明するなどしていた。また、対象会社内の処理として、2019年1月以降について、売上入力システムの入力内容を訂正した。 (4) 関与者 ① 元従業員I 元従業員Iは、Z社から受注したWEBサイトリニューアル業務の制作を担当する者であるとともに、Z社との窓口となっていた者であり、役務提供(納品)が完了していないにもかかわらず、そのことを対象会社内で共有することなく、元従業員Pに指示して請求書を発行させたり、後に、偽名を使用してZ社に請求書を破棄するよう依頼したりしていたものである。 ② 元取締役B、元従業員J、元従業員L 元取締役B、元従業員J、元従業員Lは、2019年3月頃には、Z社との取引等の経緯について、実際の経緯を把握したにもかかわらず2018年の決算訂正を回避するために事実と異なる経緯を会計監査人に報告したものである。 ③ その他 その他、対象会社内において、2019年3月以降、Z社との取引に関する実際の経緯を把握した者も複数名いたが、それらの者は決算訂正の必要性がある旨の認識までは有していなかったと推測される。 21 (5) 動機 Z社との取引に関し、本来計上すべきでない時期に売上が計上されたこと(疑義事案②)については、元従業員Iにおいて自らの不手際や独断で値引きすることをZ社に約束したことを隠蔽しようとしたことが、その動機の一つになっているものと推測される。売上計上時期が不適切であったことに関しては、2018年12月期の業績予想の修正(下方修正)を回避する目的も疑われるところであるが、元従業員Iが当該目的を有していたことを認定することは困難である。 他方、Z社との取引の売上が本来計上すべきでない時期に計上されていたのに、それが訂正されなかったことについては、前記のとおり、元取締役B、元従業員J、元従業員Lらが決算の訂正を回避しようとしたからであると認められる。その背景に、元取締役B及び元従業員Lが他の不正行為を行い、対象会社の資金を不正に流用、着服していた事実があったことから、仮に決算の訂正を行うことになれば、その過程で、元取締役B及び元従業員Lらが行っていた不正行為が判明してしまう可能性を考えていたものと推測される。 3 不適切な費用の繰延べ(疑義事案③) (1) 事案の概要 2018年9月支払いの広告関連費約315万円(税抜)について、本来2018年12月期に費用として計上すべきであったが、それを翌2019年6月及び9月に費用として計上していた。 (2) 関与者、手口及び動機 元取締役Bとその指示を受けていた元従業員Lによって、費用を当該年度に計上せず、翌年に計上したものである。この両名は、疑義事案③に限らず、後述するように、頻繁に、かつ意図的に、費用を本来計上すべき時期に計上しないという処理(期ずれ)を生じさせていた。これは、元取締役Bが不正行為の発覚を回避するために、取締役会への報告や決算額の報告において、業績予想との乖離を最小限に押さえるなどして、他の役員や会計監査人の注意や関心を引かないようにするためであったと推測される。 4 その他の不適切な会計処理(旅費交通費等の不適切な会計処理) (1) 事案の概要 対象会社の部長職にある従業員Gは、主として関西方面に出張したことを装い、実際には必要ない分まで新幹線のチケット等を購入した上で、そ 22 の領収書をもって旅費交通費等として対象会社に対して申告し、対象会社から領収書記載の金額相当額の資金を不正に流出させた。 そして、購入したチケット等については返金処理等を行い、返金分を不正に着服した。当該着服には、対象会社外の者が同行すると虚偽の説明を行い、同行者分の出張費(旅費交通費等)を不正に流出させたものと、実際には出張自体がないのに、土日に出張があることを装ったものがある(以下、「カラ出張」という。)。 なお、同行者伴った出張及び土日の出張以外にも、複数日において、出張を装い不正に旅費交通費等を着服した疑いがある。当委員会としては、Gの供述内容、及びWEBメールやグループウェアでのやりとりの内容等から、上記の同行者分及び土日出張分については出張の実態がないと強く疑われたことから、それをカラ出張として認定したものである。 (2) 出張の実態 従業員Gは、関西方面など首都圏以外の顧客を担当していたことから、元々、関西方面への出張が多かったが、カラ出張については、実際には、従業員Gが同行者として説明していた者は同行していなかった。また、毎週土曜日と日曜日に、当該取引先において打合せが行われるため関西方面に出張していたという従業員Gの説明も実際とは異なり、毎週土日の打合せは行われていなかった。つまり、関西方面への同行者分の旅費交通費と毎週土日の出張に要した費用(旅費交通費)については、そのほとんどが虚偽の申告によるものであった。 (3) 動機 従業員Gのプライバシーに関することであり、動機及び金銭の使途に関して詳細は記載しないが、要すれば、自らが自由にできる金銭を確保することが動機になっていたものである。 (4) 手口及び関与者 従業員Gは、元々関西方面の取引先を複数担当し、それら取引先との連絡窓口となっており、関西方面の取引先と連絡をとり、打合せなどを行っていた。また、部長職という決裁権者であり、自らが出張の必要性を判断すると

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

シェアしたい方はこちらからどうぞ
URLをコピーする
URLをコピーしました!