アイ・テック(9964) – 第三者調査委員会の調査報告書の受領及び公表に関するお知らせ

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開示日時:2022/01/18 17:30:00

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損益

決算期 売上高 営業益 経常益 EPS
2018.03 7,282,679 403,621 416,034 246.64
2019.03 8,990,656 412,327 429,749 347.32
2020.03 8,336,699 390,015 408,863 247.53
2021.03 6,778,526 165,985 159,925 129.76

※金額の単位は[万円]

キャッシュフロー

決算期 フリーCF 営業CF
2018.03 -428,551 -87,967
2019.03 -329,744 -24,849
2020.03 850,589 898,922
2021.03 457,528 561,090

※金額の単位は[万円]

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各 位 2022年1月18日 会 社 名 株 式 会 社 ア イ ・ テ ッ ク 代 表 者 名 代 表 取 締 役 社 長 大畑 大輔 (コード:9964・JASDAQ) 問 合 せ 先 常務取締役管理本部長 伏見 好史 (TEL 054-337-2001) 第三者調査委員会の調査報告書の受領及び公表に関するお知らせ 当社は、2021年7月26日付「第三者調査委員会の設置に関するお知らせ」にてお知らせしましたとおり、当社役員及び従業員が取引先に対して外注費を過剰に支払い、キックバックを受けていた疑いが生じたため、専門的かつ客観的な見地から、事実関係の正確な把握・分析を行った上で、当該事実関係を踏まえた会計処理の適正性・妥当性及び訂正の要否等の検討を行うことが必要であると判断し、2021年7月26日の取締役会において、当社と利害関係を有しない外部専門家から構成される第三者調査委員会(以下「本委員会」といいます。)を設置することを決議し、本委員会に対して本件に係る事実の調査を委嘱し、本件の調査(以下「本調査」といいます。)を進めてまいりました。 なお、当社は、2021年9月7日付「第三者調査委員会の中間調査報告書受領に関するお知らせ」にてお知らせしましたとおり、本委員会より中間調査報告書を受領し、2021年9月8日付「第三者調査委員会の中間調査報告書(要約版)の公表に関するお知らせ」にてお知らせしましたとおり、その要約版を公表しております。 この度、本日、第三者調査委員会より調査報告書を受領いたしましたので、その概要と今後の対応方針について、下記のとおりお知らせいたします。 記 1.本委員会から受領した調査報告書の内容 本委員会から受領した調査報告書の内容につきましては、別添の「調査報告書(公表版)」をご覧なお、当該報告書につきましては、個人のプライバシー及び秘密情報保護の観点から、部分的な非ください。 開示措置・匿名化を施しております。 2.過年度決算に与える影響 当社は、2021年9月14日付「第63期(2022年3月期)第1四半期報告書及び過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出並びに過年度の決算の訂正に関するお知らせ」にてお知らせしましたとおり、本委員会の中間調査報告書の内容及び社内調査の結果を踏まえ、2017年3月期以降の有価証券報告書等における不適切な会計処理の訂正を行っております。 3.今後の対応方針 当社は、今回の事態を真摯に受け止め、改めて深くお詫びを申し上げますとともに、第三者調査委員会の調査結果及び原因分析に基づいた再発防止策の提言につき十分に分析、検討の上、具体的な再発防止策を速やかに策定し、実行してまいります。なお、具体的な再発防止策は、決定次第速やかにお知らせいたします。 株主・投資家の皆様をはじめ、市場関係者及び取引先の皆様に、多大なご迷惑とご心配をおかけいたしておりますことを、心よりお詫び申し上げます。 以 上 調 査 報 告 書 2022 年 1 月 18 日 株式会社アイ・テック第三者調査委員会 株式会社アイ・テック 御中 調 査 報 告 書 2022 年 1 月 18 日 株式会社アイ・テック第三者調査委員会 委員長:弁 護 士 藤井 崇仁 (サウスゲイト法律事務所・外国法共同事業) 委 員:公認会計士 和泉 嘉人 (鳥羽公認会計士事務所) 委 員:税 理 士 西山 公造 (朝日税理士法人) 当委員会は、2021 年 7 月 26 日に貴社からの委嘱に基づき設置され、貴社役員及び従業員が取引先に対して外注費を過剰に支払い、キックバックを受けていたという疑いに関して、事実の調査を実施した(以下、当委員会による調査及び検討を総称して「本調査」という。)。当委員会は、2021 年 9 月 7 日付で中間調査報告書を提出し、本調査の結果について報告するとともに、その後も追加で調査を実施した。本書は、中間調査報告書に記載された事実と併せて、追加調査により新たに判明した事実を報告し、その原因及び責任の所在を明らかにするとともに再発防止策の提言を行うことを目的としている。 目 次 第 1 部 本調査の概要 …………………………………………………… 1 第 1 当委員会の設置の経緯等 ………………………………………….. 1 第 2 当委員会の構成 …………………………………………………. 2 第 3 調査目的 ……………………………………………………… 2 第 4 調査期間 ……………………………………………………… 2 第 5 調査の範囲及び方法 ……………………………………………… 3 1. 調査対象期間 …………………………………………………… 3 2. 調査対象 ……………………………………………………… 3 3. 調査方法 ……………………………………………………… 3 4. 調査の前提及び留意事項 ………………………………………….. 5 第 2 部 本調査の結果 …………………………………………………… 6 第 1 アイ・テックの概要 ……………………………………………… 6 1. 基礎情報 ……………………………………………………… 6 2. 事業の概要…………………………………………………….. 7 3. 東京支社の概要 …………………………………………………. 7 第 2 本件に関する事実 ………………………………………………. 12 1. 判明した事実の概要 …………………………………………….. 12 2. 関与者 ………………………………………………………. 12 3. 工事費用の過剰支払及びキックバック受領のスキーム ………………….. 13 4. 本件の経緯……………………………………………………. 14 5. 過剰支払額及びキックバック額 ……………………………………. 16 6. キックバックの使途 …………………………………………….. 18 第 3 その他の不正な金銭授受 …………………………………………. 20 1. a 社 B 氏から AY 氏に対する金銭授受 ……………………………….. 20 2. ファブリケーターから AW 氏に対するキックバック …………………….. 20 第 4 中間調査報告書提出以後に判明した事実 …………………………….. 22 1. h 社に関する事案について ……………………………………….. 22 2. その他の事案について …………………………………………… 24 第 5 発生原因の分析 ………………………………………………… 26 1. コーポレート・ガバナンスの機能不全 ………………………………. 26 2. コンプライアンス意識の欠如 ……………………………………… 28 3. 鉄骨工事請負事業の体制構築の不十分性 …………………………….. 29 4. 業務の属人化・現場施工業者との馴れ合いや癒着 ……………………… 30 第 6 責任の所在……………………………………………………. 31 1. 行為者の責任 ………………………………………………….. 31 2. 役員の責任……………………………………………………. 32 第 7 再発防止策の提言 ………………………………………………. 36 1. 取締役会の運営改善 …………………………………………….. 36 2. 社外取締役の強化(専門性のある社外取締役の招聘)、増員 ……………… 36 3. 監査役の強化(専門性のある監査役の招聘)、増員 …………………….. 36 4. 内部監査部門の強化 …………………………………………….. 37 5. 三様監査の強化 ………………………………………………… 37 6. 東京支社のガバナンス強化 ……………………………………….. 37 7. 役職員に対するコンプライアンス教育 ………………………………. 38 8. 工事原価のチェック等のリスク管理体制の見直し・強化 ………………… 38 9. 業務フロー・業務分掌の見直し ……………………………………. 39 10. 人事ローテーション …………………………………………….. 40 11. 接待交際費のルールの見直し ……………………………………… 40 12. 営業手法の見直し ………………………………………………. 40 13. 下請業者への牽制・指導 …………………………………………. 41 14. 内部通報制度の周知・利用対象者の拡大 …………………………….. 41 別紙 1 …………………………………………………………… 42 別紙 2 …………………………………………………………… 43 第1部 本調査の概要 第1 当委員会の設置の経緯等 株式会社アイ・テック(以下「アイ・テック」という。)は、2021 年 7 月 1 日、広島地方検察庁がアイ・テック東京支社(以下、単に「東京支社」という。)に強制捜査に入ったことを端緒として、アイ・テックの取引先が法人税法違反の被疑事実で捜査を受けている過程で、アイ・テックの役員及び従業員が取引先に対して外注費を過剰に支払い、キックバックを受けていた可能性がある旨の疑いが生じていることを把握した(なお、本調査に先立つ 2019 年 4 月にアイ・テック東京支社に対して広島国税局の任意調査が実施されたが、あくまで取引先による法人税法違反の嫌疑に対する反面調査という形であったため、アイ・テックの役員及び従業員が不正に関与している疑いが生じていることは明確に認識されなかった。)。また、その後にアイ・テック社内で行われたヒアリングにより、当該取引先を含む下請業者 5 社との間で、少なくとも 2014 年から 2021 年の 8 年間にわたり、外注費の過剰な支払及びキックバックの受領を行っていた事実が存在する可能性を認識した。 アイ・テックは、このような状況において、専門的かつ客観的な見地から、事実関係の正確な把握・分析を行った上で、当該事実関係を踏まえた会計処理の適正性・妥当性の検討、訂正の要否等の分析等が必要であると判断し、2021 年 7 月 26 日の取締役会において、アイ・テックと利害関係を有しない外部専門家から構成される第三者調査委員会(以下「当委員会」という。)を設置することを決議し、当委員会による本調査を開始した。 また、アイ・テックは、本調査、会計監査人による調査報告書の検証や追加監査手続、過年度及び当期(2022 年 3 月期)第 1 四半期の決算数値確定、アイ・テックによる過年度有価証券報告書等の訂正の要否の分析、会計監査人の監査報告書受領等により、当期第 1 四半期報告書(自 2021 年 4 月 1 日 至 2021 年 6 月 30 日)を提出期限である 2021 年8 月 16 日までに提出することが困難になったとして、2021 年 8 月 11 日に東海財務局に対して当該四半期報告書の提出期限延長申請を行い、翌 12 日に提出期限を 2021 年 9 月14 日まで延長する旨の承認を得た。 その後、当委員会は、アイ・テックに対して 2021 年 9 月 7 日付中間調査報告書を提出し、アイ・テックは当該中間調査報告書の内容及び社内調査の結果を踏まえて、2021 年 9 月14 日に当期第 1 四半期報告書を提出した。また、アイ・テックは、同日、各連結会計年度における影響額を特定し、過年度からの累積的影響額に重要性があるものと判断して2017 年 3 月期以降の有価証券報告書等における不適切な会計処理の訂正を実施するとともに、東海財務局に対して内部統制報告書の訂正報告書を提出した。 – 1 – 当委員会は、以下の 3 名の委員により構成され、以下の者を調査補助者及び事務局とし 第2 当委員会の構成 て選定した。 (1) 委員会 委員長 藤井 崇仁(弁 護 士) 委 員 和泉 嘉人(公認会計士) 委 員 西山 公造(税 理 士) (2) 調査補助者及び事務局 佐藤総合法律事務所所属の弁護士 6 名、公認会計士 3 名 当委員会の運営は、日本弁護士連合会による「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(2010 年 7 月 15 日公表)に従って行われた。なお、当委員会の委員並びに調査補助者及び事務局を務めたメンバーは、いずれもアイ・テックとの間に顧問契約等の特別の利害関係を有していない。 さらに、当委員会は、デジタルフォレンジック調査についてはフロンティア・マネジメント株式会社から、アンケート調査については株式会社エスシーシーから補助を受けた。なお、両社は、いずれもアイ・テックからの独立性及び中立性を有している。 当委員会が実施した本調査の目的は、以下のとおりである。 (1) アイ・テックによる取引先への過剰な工事費用の支払並びにアイ・テックの役員及び従業員によるキックバックの受領(以下「本件」という。)に関する事実の調査を実施する。 の調査を実施する。 (2) 本調査の過程で発覚した不正が疑われる事案の調査及び本件と類似する事案の有無(3) 上記(1)及び(2)の事実が存在する場合、発生原因を解明し、責任の所在を明確にするとともに、再発防止策の提言を行う。 第3 調査目的 第4 調査期間 2021 年 7 月 26 日(月)~2021 年 12 月 28 日(火) なお、当委員会は、第 1 に記載のとおり、アイ・テックの 2022 年 3 月期第 1 四半期報告 – 2 – 第5 調査の範囲及び方法 1. 調査対象期間 書の延長後の提出期限が 2021 年 9 月 14 日までとされていることを踏まえて、2021 年 9月 5 日(日)までにアイ・テックの決算の確定のために必要となる第 3 (1)の調査を実施しており、2021 年 9 月 7 日付中間調査報告書においてその結果を報告済みである。 当委員会は、アイ・テック社内で行われたヒアリングにより、本件が 2014 年から 2021 年の 8 年間にわたって行われていたとの情報を得たため、本調査の対象期間を 2013 年 4 月1 日から 2021 年 6 月 30 日まで(2014 年 3 月期から 2022 年 3 月期第 1 四半期まで)と設定した。 なお、本調査の一環として行われたアイ・テックの従業員に対するヒアリングの中で、本件が 2008 年頃から始まったとの供述を得たが、当該時期において本件を主導していたと思われるアイ・テックの役員が 2014 年に死去していること及び当時の証拠が残っていないことから、2013 年 4 月 1 日以前に遡って本件に係る事実を認定することが不可能であったため、本調査の対象期間は変更しなかった。但し、本調査においては、本件の発端となる経緯を確認するのに必要な範囲において、2013 年 4 月 1 日以前の事実に関してもヒアリングを実施し、本調査の参考情報として記載している。 2. 調査対象 3. 調査方法 当委員会は、本件を調査対象として本調査を開始したが、本調査の過程で東京支社の鋼材営業部において不正が疑われる事案が発覚したため、当該事案を追加調査の対象に含めることとした。また、本件の類似事案の有無を調査するため、アイ・テック及びアイ・テックの連結子会社の全役職員を対象とするアンケートを実施した。 当委員会は、アイ・テック及びその役職員から開示された資料の閲覧及び検討、アイ・テックの役職員及び外部関係者に対するヒアリング、アイ・テックの従業員及び外部関係者に対する書面による質問の実施、デジタルフォレンジック調査、役職員アンケート並びに一般に入手可能な公開情報に基づき、本調査を実施した。その具体的な調査方法は以下のとおりである。 (1) 開示資料の閲覧及び検討 当委員会は、鉄骨工事請負における業務記述書、取引関連資料、工事台帳、支払管理表等の資料について、当委員会が必要と認める範囲で閲覧及び検討を行った。また、取引先から金銭を受領していた疑いがある一部の役職員については、当人の同意を得た上で、銀行口座の取引履歴の確認を実施した。 – 3 – また、後述するように、本調査において検証可能な本件の証拠は非常に限定的であり、本調査はアイ・テックの役職員及び外部関係者に対するヒアリング及び質問回答の内容に依拠せざるを得なかったことから、当委員会は、供述等の裏付けを取るため、本件において主導的な役割を果たした従業員に対して、収集可能な資料と当人の記憶を基に、調査対象期間においてアイ・テックが下請けの現場施工業者 5 社に対して支払った過剰な工事費用及びキックバックの金額(年度毎の明細を含む。)とキックバックを受けた金額の配分を記載した資料の作成を依頼し、これを受領した。更に、当委員会は、かかる資料の正確性を検証するため、アイ・テックに対して工事管理システムから下請けの現場施工業者 5 社に対する各月の支払データを抽出させ、支払の金額及び時期の観点から齟齬が見受けられないか検証を依頼しており、その結果について一応の整合性がみられることを確認している。 (2) アイ・テックの役職員及び外部関係者に対するヒアリング 当委員会は、本件に関する事実確認の観点から、本件に関与した可能性の認められる東京支社の役職員及び本件への関与が認められた下請けの現場施工業者のうち、当委員会が必要と判断した取引先の担当者に対してヒアリングを実施した。また、当委員会は、本件の発生原因及び責任の所在の分析並びに再発防止策の提言を行うため、アイ・テックの代表取締役会長(高齢のため実施せず。)を除く全役員に対してヒアリングを実施した。 さらに、当委員会は、本調査の過程において発覚した本件以外の不正が疑われる事案及びアイ・テックの従業員による不適切な行為に関する事実確認において必要と考えられる従業員及び下請先の役職員に対しても、ヒアリングを実施した。 ヒアリング対象者は別紙 1 のとおりである。 (3) アイ・テックの従業員との間での書面による質問 当委員会は、本件への直接的な関与は認められないものの、本件と関連する事項に関する事実確認において必要と考えられる従業員に対して、質問状を送付した(当該従業員については、本件への直接的な関与は認められない点を考慮し、ヒアリングではなく質問状の送付に留めた。)。 また、当委員会は、本件以外の不正が疑われる事案及びアイ・テックの従業員による不適切な行為に関する事実確認において必要と考えられる従業員に対してヒアリングの実施を打診したが、体調不良によりヒアリングに応じることができないとの返答があったため、質問状を送付した。 (4) 外部関係者との間での書面による質問回答 当委員会は、本件への関与が認められた下請けの現場施工業者 5 社全てについて、担当者に質問状を送付し、うち 3 社から回答を得た。 (5) デジタルフォレンジック調査 – 4 – 当委員会は、ヒアリング及び書面による質問を実施した役職員を含め、本件及び本件に関連する事項への関与の可能性が存する役職員(元従業員を含む。)を対象として、デジタルフォレンジック調査を行うこととし、デジタルフォレンジック調査に必要なデータ保全についてはフロンティア・マネジメント株式会社に依頼することとした。データ保全の対象となる機器は、各人が業務上使用していたパソコン及びモバイルデバイスであり、これらを使用して送受信されたメール(本件について中心的な関与が認められる 2 名については表計算ソフトで作成されたファイルも含む。)を抽出し、その内容を検証した。 デジタルフォレンジック調査の実施方法は、別紙 2 のとおりである。 (6) 役職員アンケート 本件の類似事案の有無に係る調査を目的として、2021 年 11 月 25 日から同年 12 月 3日までの期間において、アイ・テック及びアイ・テック連結子会社の全役職員 801 名を対象として、不適切な金銭授受等の疑いがある事案が生じていないかについてアンケートを実施し、うち 798 名から回答を得た。 4. 調査の前提及び留意事項 本件が検察による捜査の対象となっており、本件に関する証拠の多くが検察に押収されていた(また、当該捜査に先立ち、別件で広島国税局による調査も実施されており、当該調査による書類の領置も実施されていた。)ため、検証可能な本件の証拠が非常に限定的であったこと及びアイ・テックの役職員及び関係者に対するヒアリングが任意の協力に基づくものであったことにより、本調査には事実認定上の制約があった点を付言する。 また、本書の内容は、上記 1 乃至 3 で述べた本調査の範囲及び方法において、調査期間内に判明した事項に限定され、本調査の範囲及び方法では捕捉できない事実は反映されていない。 – 5 – 第2部 本調査の結果 第1 アイ・テックの概要 1. 基礎情報 (1) 商号 (2) 所在地(登記上) 静岡県静岡市清水区三保 387 番地 7 (3) 代表者の役職・氏名 代表取締役社長 大畑 大輔 (4) 事業内容 株式会社アイ・テック (5) 資本金の額 (6) 設立年月 (7) 株主 (8) 役員 (9) 従業員数 (10)決算日 (11)沿革 鋼材の販売・加工、鉄骨工事請負、倉庫業及びそれらに関連した運送等を主たる業務とする 3,948,829 千円 1960 年 10 月 株式会社 OE ホールディングス 大畑 大輔 原口 桂 山下 仁美 株式会社静岡銀行 スルガ銀行株式会社 大畑 榮一 坂本 宏允 JFE スチール株式会社 芥 好夫 代表取締役会長 大畑 榮一 代表取締役社長・事業本部長 大畑 大輔 取締役副社長 佐野 芳雄 常務取締役・管理本部長 伏見 好史 常務取締役・東京支社長 円谷 哲 取締役・東京支社副支社長 廣澤 浩一 取締役・営業統括部長 志村 太一 取締役 小松 三朗 取締役 中村 光央 常勤監査役 伊藤 雅啓 監査役 西野 彰 監査役 粕谷 興博 522 人 3 月 31 日 1960 年 10 月 静岡県清水市松原町において鋼材の加工及び販売を目的とする清水シャーリング株式会社を設立 1962 年 8 月 静岡県清水市入江に本社を移転 1963 年 10 月 清水シャーリング鋼材株式会社に商号変更 1989 年 12 月 株式会社アイ・テックに商号変更 1994 年 2 月 日本証券業協会に登録、店頭登録銘柄として株式公開 2000 年 7 月 静岡県清水市三保に本社を移転 – 6 – 2004 年 12 月 日本証券業協会への店頭登録を取消し、ジャスダック証券取引所に株式を上場 2008 年 7 月 東京工場にて鉄骨性能評価の H グレードを取得2008 年 8 月 大川スティール株式会社(現連結子会社)の株し、鉄骨製作に参入 式を取得し、子会社とする 2009 年 4 月 株式会社オーエーテック(現連結子会社)を設立 2010 年 4 月 ジャスダック証券取引所と大阪証券取引所の合併に伴い、大阪証券取引所 JASDAQ に上場 2013 年 7 月 東京証券取引所と大阪証券取引所の統合に伴い、東京証券取引所 JASDAQ(スタンダード)に上場 2. 事業の概要 アイ・テックの主な事業内容は、以下のとおりである。 (1) 鋼材の販売・加工事業 H 形鋼、鋼板、コラム等の鉄鋼製品の仕入販売・加工販売及びカクパイプ、C 形鋼、合成スラブ用デッキプレート、フラットデッキプレート等の製造販売を行う。 (2) 鉄骨工事請負事業 ゼネコン及び商社等より鉄骨工事(鋼鉄製の部材を用いて建物などの骨組みを作る工事)を請け負い、子会社・協力会社のファブリケーター(鉄骨部材を製作する加工業者)にて加工した鉄骨建材を使用し、現場における組立・施行までを行う。 (3) 事業セグメント毎の売上高 第 62 期(自 2020 年 4 月 1 日 至 2021 年 3 月 31 日)における事業セグメント毎の売上高は以下のとおりである。なお、下表の「その他」は、運送業、倉庫業等である。 (単位:千円) 事業セグメント 第 62 期 鋼材の販売・加工事業 55,410,412(81.7%) 鉄骨工事請負事業 12,121,090(17.9%) その他 合計 253,752 (0.4%) 67,785,256 (100%) 3. 東京支社の概要 本調査によって、本件のスキームが東京支社建築事業部の鉄骨工事請負業務の過程で実行されていたこと、本件の主たる目的が東京支社建築事業部の営業部における接待交際 – 7 – (1) 組織体制 る。 費の捻出にあったこと等が判明しているところ、東京支社建築事業部における組織体制、鉄骨工事請負の業務フロー及び交際費の処理手続は、以下のとおりである。 2021 年 7 月 1 日時点における東京支社建築事業部の組織体制は、以下のとおりであ (2) 鉄骨工事請負の業務フロー アイ・テック東京支社における鉄骨工事請負の業務フローは、業務記述書及びヒアリングによれば、概ね以下のとおりである。もっとも、アイ・テックの全ての取引において、以下のフローに従って業務が遂行されているわけではない。 ① 工事物件受注可能申請 東京支社営業部の担当者(以下「営業担当者」という。)は、ゼネコン(発注元が商社等の場合も含む。以下同じ。)から鉄骨工事物件情報を入手した後、「工事物件受注可能申請書」を作成し、支社長の承認・捺印を得て、本社営業統括部業務課に FAX を送信する。本社営業統括部業務課の担当者は「工事物件受注可能申請書」を社長及び会長に提出し、決裁を受ける。 ② 見積り – 8 – 営業担当者は、ゼネコンから見積依頼を受け、図面及び物件の詳細情報を入手し、ファブリケーター及び現場施工業者の絞り込みをする。営業担当者は、ファブリケーター及び現場施工業者より、図面及び積算調書を基に作成された見積書を受領し、価格・原価等を勘案し、ゼネコンへの見積書を作成する。当該見積書について、支社長の承認を得た後、ゼネコンに提出する。 ③ 受注・工事申請・発注 ゼネコンより発注の内諾を得た後、「成契通知書」を作成し、支社長の承認を得る(一部のヒアリング対象者によれば、この段階で、営業担当者が原価の概算をして大まかな予算を作成するとのことである。なお、予算については、最終的に粗利が 10%確保できるように余裕をもって作成するが、どの程度の余裕をもたせるかは案件毎に異なるとのことである。)。 営業担当者は、発注の内諾を得た物件について、所定の資料を添付した「工事物件申請書」を作成し、支社長の承認を得る。その後、「工事物件申請書」に①の「工事物件受注可能申請書」を添付し、社長及び会長の承認を得る。 ゼネコンから注文書を受領した後、営業担当者は、注文請書を発行する。また、ファブリケーター及び現場施工業者に対しては、注文書を発行し、注文請書を受領する(一部のヒアリング対象者によれば、この段階では、現場施工業者に対して注文書が発行されないことも多いとのことである。)。 営業担当者は、東京支社工務部の担当者(以下「工務担当者」という。)に工事物件の工程管理を依頼し、資材担当者に材料の手配を依頼する。 ④ 工事進捗管理 工務担当者は、営業担当者と工事物件について詳細な打合せを行った後、ファブリケーター及び現場施工業者との打合せにより「製作要領書」及び「施工要領書」を作成し、営業担当者と工務担当者は、それを用いて現場監督と工程等に関する打合せを行う。 工務担当者は、ゼネコンの締め日に合わせてファブリケーター及び現場施工業者と進捗状況を確認して営業担当者に報告する。 工務担当者は、ファブリケーターにおける進捗状況を記載した「工事進捗状況[工務入力シート]」を作成する。営業担当者は、進捗状況及び受発注額を確認し、金額変更があった場合は、システム上で修正登録を行う。 ⑤ 工事進捗管理(追加工事・金額変更) 工事の進捗や設計変更等により、受発注金額に変更が生じた場合、営業担当者は、変更後の見積書、「契約金額増減表」等を作成し、ゼネコンに提出する。ゼネコンが当該書類を承認し、変更の発注をした後、営業担当者は、工務担当者 – 9 – に現場施工業者との実務手続を依頼し、これを受けて、工務担当者は、現場施工業者に追加・変更工事の作業指示を行う(一部のヒアリング対象者によれば、実際には、アイ・テック社内での書類作成やゼネコンへの申請よりも現場における追加工事の実施が先行することが多いとのことである。)。 営業担当者は、所定の資料を添付した変更後の「工事物件申請書」について、支社長の承認を得た後、本社営業統括部業務課に FAX を送信する。本社営業統括部業務課の担当者は、変更後の「工事物件申請書」について、その内容を確認し検印を押した上で、社長の確認印を得て保管する。また、本社営業統括部業務課の担当者は、変更後の「工事物件申請書」の受注金額を確認し、進行基準区分を修正する。 ⑥ 未成工事支出金・工事未払金の計上 営業担当者は、進捗状況に応じてファブリケーター及び現場施工業者より請求書を受領し、工務担当者及びゼネコンとの打合せに従った請求額をベースに査定を行い、査定により検収した金額を仕入入力する。ファブリケーター及び現場施工業者から受領した請求書については、一時保管する。支社長又は工事管理担当者は、当該請求書と「工事仕入伝票」を照合し、承認・捺印する。 ⑦ 工事代金の請求 営業担当者は、ゼネコンと請求額の打合せを行い、工事代金を決定する。営業担当者は、ゼネコン指定の請求書の作成・発送又は EC(ネットワークを介して決済を行う取引システム)による請求を行う。また、営業担当者は、「工事売上伝票」を作成し、支社長又は工事管理担当者の承認・捺印を得て、保管する。ゼネコンでの支払額確定後、ゼネコンからアイ・テックに対して「支払通知書」が発送され、営業担当者は入金予定額を確認する。 ⑧ 工事未払金の支払 営業担当者は、⑥で保管しておいた請求書を基に、ゼネコンからの回収状況又は回収予定を記入した「支払決裁書」を作成する。「支払決裁書」について、支社長の承認を得た後、当該「支払決裁書」に工事台帳等を添付し、管理本部長、社長及び会長の承認を得る。その後、経理部にて「支払決裁書」に基づき支払処理を行う(一部のヒアリング対象者によれば、実際の運用としては、⑦と⑧の順序が逆転し、ゼネコンからの支払がなくとも全体の収支バランスを見て、先行して現場施工業者に工事代金を支払うことも多いとのことである。)。 また、月に 1 回の頻度で、「支払決裁書」の支社長承認後の段階で、主としてゼネコンから支払われる金額とファブリケーター及び現場施工業者に支払う金額の収支バランスを確認するという趣旨で、各営業担当者が持ち寄った担当案件の月毎の支払予定等を記載して統合した「支払管理表」をもとに、営業部、経理担当者、支社長等のメンバーにて支払会議を行う。 – 10 – ⑨ 工事完成 営業担当者は、ゼネコンとの間で工事完了の合意を行い、「工事完了証明書」を作成し、現場所長から検収・捺印を得た後、所定の資料を添付した「工事完了報告書」を作成し、支社長に提出する。支社長は、注文書と「工事完了証明書」の金額の照合を行った上で、「工事完了報告書」に承認・捺印を行う。その後、営業担当者は、「工事完了証明書」及び「工事完了報告書」を本社営業統括部業務課の担当者に FAX を送信する。本社営業統括部業務課の担当者は、「工事完了証明書」及び「工事完了報告書」の工事完了日の一致を確認し、「工事完了報告書」に捺印する。本社営業統括部業務課の担当者は、工事台帳の問い合わせ画面にて、売上及び仕入計上額残がゼロであることを確認し、工事物件の完成フラグ更新処理を行い、社長に報告する。 ⑩ 工事原価の実在性チェック 受注金額 3 億円以上、発注金額 1 社 1 千万円以上の受発注に対しては、四半期毎に本社営業統括部業務課の担当者による工事原価の実在性確認が行われる。その確認方法は、対象となる受発注先の見積書に対し、実際の作業を行ったことが証明できる資料を収集し、受発注が架空や不適切でなかったかを検証するというものである。 (3) 交際費の処理手続 接待等を目的として交際費を使用する場合、支社長に事前申請書類を提出し、仮払金を受け取る。費用の支出後、領収書を提出して、支社長の承認を受ける。なお、交際費が 1 件 10 万円を超える場合には稟議により社長決裁とされている。 東京支社においては、毎月 400 万円の小口現金の使用が承認されており、この範囲で、上記手続により交際費の精算を行うこととなっている。但し、高額の精算については、別途支払決裁書を作成し社長決裁の上、本社にて精算するものも存在する。 交際費の申請について、支出の目的や金額との関係で明確な承認基準は設けられていない。もっとも、一部のヒアリング対象者からは、遠隔地への移動を伴うゴルフや高級クラブ等に支出した費用については、その内実が接待であっても申請し難い雰囲気があり、自己で負担することもあるとの話があった。 – 11 – 第2 本件に関する事実 1. 判明した事実の概要 遅くとも 2013 年 4 月頃から(なお、一部のヒアリング対象者から、本件は 2008 年頃から開始されたとの供述を得たが、第 1 部 第 5.1 記載の理由により、2013 年 4 月 1 日以前に遡って本件に係る事実を認定することは不可能であった。)2021 年 6 月までの間、東京支社において、取締役兼副支社長 廣澤浩一氏(以下「廣澤氏」という。)、建築事業部長 AZ氏及び工務部長 AY 氏(なお、後述のとおり、AY 氏は 2021 年 3 月末日付でアイ・テックを退職している。)は結託して、鉄骨工事請負の現場施工業者をしてアイ・テックに工事費用を過剰に請求させ、当該現場施工業者が支払を受けた工事費用からキックバックを支払わせるというスキーム(以下「本スキーム」という。)を実行した。過剰支払額の一部は、現場施工業者が受領し、残額については AY 氏経由で廣澤氏及び AZ 氏がキックバックとして受領した。 廣澤氏及び AZ 氏は、キックバックとして受領した金銭をゼネコンへの接待等に費消したが、一部を私的に流用した。 2. 関与者 (1) 関与者の経歴及び業務内容 本スキームに関与した人物の経歴及び業務内容等は、以下のとおりである。 ① 廣澤氏 至る。 ② AZ 氏 廣澤氏は、前職を経て、2001 年にアイ・テックに入社し、アイ・テック旧東京支店(東京支社の前身)営業課勤務となる。その後、2011 年に取締役・東京支社副支社長・建築事業部長に就任し、2016 年 8 月に常務取締役となったが、その後、2021 年 4 月に建築事業部長、2021 年 6 月に常務の役職を解かれ、現在に東京支社における主な業務内容は、本社との調整業務、副支社長としての管理業務、施工主やゼネコンに対する営業業務等である。 AZ 氏は、前職を経て、2000 年にアイ・テックに入社し、アイ・テック旧東京支店営業課勤務となる。その後、2011 年に営業部長、2021 年 4 月に建築事業部長となり現在に至る。 主な業務内容は、東京支社内部の全体管理業務や営業部門の統括業務、ゼネコンに対する営業業務等である。 ③ AY 氏 – 12 – AY 氏は、前職を経て、2004 年にアイ・テックに入社し、旧東京支店建築プロジェクト勤務となる。その後、2017 年 4 月に東京支社工務部部長の職に就いたものの、広島国税局の調査により判明した a 社からの金銭授受問題(詳細は第 3.1参照)により、2021 年 3 月末日付でアイ・テックを退職している。 在職時の主な業務内容は、鉄骨請負業務に必要な現場施工業者の選定業務、現場工事費用の振分け業務及び現場施工業者に発行する注文書の作成業務等の現場施工業者に対する窓口業務である。 AX 氏は、2004 年に自身が取締役を務めていた会社からアイ・テックに出向し、旧東京支店長となる。その後、2007 年に出向元の会社を退職し、アイ・テックの専務取締役に就任(旧東京支店長と兼務)するが、在職中の 2014 年 6 月に死AX 氏は、2004 年頃から、旧東京支店長として旧東京支店の全体の統括・管理業④ AX 氏 去している。 務を行っていた。 (2) 関与者の人的関係 廣澤氏及び AY 氏は、前職で同じ会社に同時期に勤務しており、アイ・テック入社前より面識はあったものの、その当時は異なる部署にて勤務していたため、仕事上の接点はほとんどなかった。 AX 氏は、前職において廣澤氏及び AY 氏のそれぞれと上司・部下の関係であったことがあり、AY 氏は、前職を退職する際、AX 氏から廣澤氏を紹介され、廣澤氏の誘いを受けたことによりアイ・テックに入社した。 3. 工事費用の過剰支払及びキックバック受領のスキーム 工事費用の過剰支払及びキックバックの受領は、以下の流れにより行われていた。 (1) 対象案件の選定 ゼネコンから支払われる鉄骨工事請負の受注金額の目途が立った段階で、AZ 氏は、工事費用の過剰支払及びキックバックに利用する案件を選定する。AZ 氏によれば、この際、ゼネコンからの受注金額とアイ・テックの仕入原価の差が大きく、現場施工業者に対し過剰な工事費用を支払い、仕入原価を過大に計上したとしても、精算段階で利益を計上できる案件を選定するとのことである。 (2) 過剰支払金額の決定及び指示 AZ 氏は、上記(1)で選定した案件に係る現場施工業者への発注金額について、通常の工事費用より過剰に支払う金額(以下「過剰支払額」という。)を決定し、AY 氏に対し、当該過剰支払額を、当該工事を担当する各現場施工業者に振り分けるよう指 – 13 – 示する。 過剰支払額には、キックバックとして受領する金額に 60%(2014 年は 50%)を上乗せした金額が設定される。なお、この上乗せ金額は、キックバックへの協力に対する現場施工業者へのインセンティブに加え、現場施工業者が過剰支払に伴い発生する法人税等の支払等に充てることを想定して設定されたものである。 (3) 過剰支払に係る請求書の発行指示 AY 氏は、AZ 氏より指示を受けた過剰支払額を現場施工業者に振り分ける。 その後、AY 氏は、現場施工業者との打合せを経て、本来の工事費用に過剰支払額を乗せた現場施工業者への支払予定額を決定し、社内の支払会議において、当該支払予定額について承認を受けた後、現場施工業者に当該金額の請求書を発行させる。 過剰支払額を上乗せする方法は、基本的に、現場施工業者が行った工事の費用を実際より高く査定するというものであるが、全く工事をしていない現場施工業者に対して工事を発注したという形を取ることもあった。 2014 年以降、過剰支払の対象先として選定された現場施工業者は、a 社、b 社、c 社であったが、2018 年は、過剰支払額が当該三社ではカバーしきれないほど高額になったため、この年に限り、d 社及び e 社も選定されている。 アイ・テックは、現場施工業者に対し、上記請求書に基づいて過剰支払額を上乗せ(4) 現場施工業者に対する工事費用の支払 した工事費用を支払う。 (5) キックバックの受領 現場施工業者は、受領した過剰支払額の 40%(2014 年は 50%)をキックバックとして AY 氏に現金で手渡しし、AY 氏はこれを全て AZ 氏に現金のまま手渡しする。 (6) アイ・テック内部におけるキックバックの配分 AZ 氏は、AY 氏から受け取ったキックバックについて、廣澤氏との配分額を独自に決めた上、廣澤氏の分を現金で手渡しすることにより配分する。 なお、廣澤氏は、AY 氏が現場施工業者から受領したキックバック総額及び AZ 氏がキックバックをどのような割合で配分しているかについては、AZ 氏から特段情報を共有されないため把握しておらず、自らの取り分を AZ 氏から現金で受領するのみである。 4. 本件の経緯 工事費用の過剰支払及びキックバックの受領に関する経緯は、以下のとおりである。 – 14 – (1) 本スキームの開始(2013 年頃) 廣澤氏は、AX 氏より、正規の接待交際費では賄いきれない分の接待費用を捻出する目的で、現場施工業者に対して工事費用を過剰に支払い、過剰に支払った金額の一部を現場施工業者からキックバックとして受領することに協力するよう持ち掛けられたことをきっかけとして、建築事業部技術部次長(当時)として現場施工業者との窓口を務める AY 氏に協力を依頼し、遅くとも 2013 年 4 月頃には、AX 氏・廣澤氏・AY 氏の 3 名にて、鉄骨工事請負の現場施工業者をしてアイ・テックに工事費用を過剰に請求させ、当該現場施工業者が支払を受けた工事費用の一部をキックバックとして支払わせるという本スキームを実行するようになった(上記 1.記載のとおり、一部のヒアリング対象者から、本件スキームは 2008 年頃に発案されて始まっていたとの供述を得たが、第 1 部 第 5.1 記載の理由により、2013 年 4 月 1 日以前に遡って本件に係る事実を認定することは不可能であった。)。 当時は、AX 氏が AY 氏に対して、案件毎に単発で、本スキームを実行するよう指示し、AX 氏の指示を受けた AY 氏が現場施工業者に過剰支払額を割り振るという形で実行されていた。また、AY 氏が現場施工業者から受け取ったキックバックは、AY 氏から廣澤氏に現金で手渡され、廣澤氏は AY 氏から受領した現金をそのまま AX 氏に手渡ししていた。 (2) AZ 氏の積極的な関与(2014 年頃~) AZ 氏は、本スキームの開始当初は、AX 氏が受領したキックバックの中から数十万円を複数回受領したことはあったものの、積極的に関与することはなかった。 2014 年頃から、東京五輪の特需等もあって接待交際の機会が増加し、より多くの接待交際費を捻出することが必要となった。また、同時期に当時の東京支社長であった AX 氏が死去し、アイ・テックの創業者である社長(当時)の大畑榮一氏と近しい佐野芳雄氏(現取締役副社長)が新たな東京支社長に任命され、社内において東京支社建築事業部の営業部における接待交際費が過剰なものではないかとの批判がなされるようになった。これらのことがきっかけとなって、本スキームにおける現場施工請業者への過剰支払額を増額することとなり、当時営業部長であった AZ 氏が、各案件への過剰支払額の割り振りを自ら行うようになる等、本スキームに積極的に関与するようになった。 (3) 過剰支払額及びキックバック額の増額(2016 年~2018 年頃) 2016 年から 2017 年にかけて、工事の受注が増加したことにより、現場における人工不足が発生し、工事の納期に遅延が生じる事態が頻発した。また、2018 年には、アイ・テックの子会社である大川スティール株式会社が工事に使用する鋼材の納期を 3、4 か月遅延したことにより、工事の納期に遅延が生じることとなった。工事の発注元であるゼネコンは、工事の納期遅れが生じた場合に下請業者に対してペナルティを課すことがあったところ、上述の事情による納期遅延に対するペナルティを課され – 15 – ることを防ぐ目的でゼネコンへ接待を行うため、2016 年から 2018 年にかけて、これまでに比して多額の接待交際費を捻出する必要が生じた。その結果、当該期間における過剰支払額及びキックバック額が相対的に多額となった。 (4) 東京支社に対する広島国税局による調査(2019 年 4 月) 2019 年 4 月、東京支社及び a 社に対し、広島国税局による調査が実施された。その際、廣澤氏、AZ 氏、AY 氏及び a 社の取締役である B 氏の 4 名で調査の対応について話合いの機会が持たれたが、工事費用の過剰支払及びキックバックの事実について、広島国税局には話さないという意思統一がなされた。もっとも、B 氏は後述の AY 氏への金銭授受(詳細は第 3.1 参照)に関する事実のみでも話さなければ事態は収束しないと判断し、当該事実については、広島国税局に詳細を話した。 以上の経緯により、広島国税局による調査によっても本件が即時に発覚することはなかったため、本スキームは実行され続け、それに伴うキックバックの受領も継続した。 (5) AY 氏の退職(2021 年 3 月) AY 氏は、広島国税局の調査により B 氏からの金銭授受が発覚したことを発端として2020 年 5 月頃より休職していたが、2021 年 3 月末日付で当該金銭授受を理由として諭旨退職となった。 されていた。 本スキームは、AY 氏退職後においても、本調査開始の端緒となった 2021 年 7 月 1 日の広島地方検察庁による東京支社に対する強制捜査が入るまでの間、継続的に実行AZ 氏は、AY 氏の休職中から、AY 氏が行っていた本スキームに係る現場施工業者との窓口を代わりに行うことがあったが、AY 氏退職後は、現場施工業者との窓口を完全に引き継いだ。また、AZ 氏は、AY 氏の休職中及び退職後にかけて、自らが受け取ったキックバックの一部を、AY 氏に対して、生活費に充ててもらう意図で複数回渡した。 5. 過剰支払額及びキックバック額 AZ 氏によれば、調査対象期間における各現場施工業者に対する過剰支払額及びキックバック額は下表のとおりである。 歴年 a 社 c 社 b 社 d 社 e 社 合計 合計 配分 過剰支払額 キックバック額 – 16 – (単位:千円) 廣澤氏 AZ 氏 2014 30,500 14,500 15,000 60,000 30,000 16,000 14,000 2015 37,500 15,000 15,000 67,500 27,000 13,000 14,000 2016 62,300 40,500 24,000 126,800 50,700 20,000 30,700 2017 87,500 31,000 16,000 134,500 53,800 22,000 31,800 2018 68,000 32,000 20,000 17,000 9,000 146,000 58,400 18,000 40,400 2019 44,000 14,000 16,000 74,000 29,600 10,000 19,600 2020 24,000 15,000 15,000 54,000 21,600 6,000 15,600 2021 8,000 5,000 5,000 18,000 7,200 2,000 5,200 – – – – – – – – – – – – – – 合計 361,800 167,000 126,000 17,000 9,000 680,800 278,300 107,000 171,300 当委員会は上表の過剰支払額及びキックバック額の正確性を確認するために、上表記載の各現場施工業者に対して、自社とアイ・テックとの関係における工事費用の過剰支払及びキックバックの存在並びにその金額を質問する内容の質問状を送付した。 e 社からは、上表記載の e 社の過剰支払額及びキックバック額について、社内資料により確認したところ間違いない旨の回答を得られた。 b 社からは、過剰支払額及びキックバック額を正確には認識していないものの、過剰支払額は月平均 200 万円程度であり、そのうち半分をキックバックしていた旨及びキックバックの減額を要請した際に、b 社に協力してもらっている金額が一番少額と言われた旨の回答が得られた。d 社については、当時の担当者である社長が死去しているため、過剰支払及びキックバックの存在並びにその金額は不明であるとの回答であった。 a 社及び c 社については、調査期間内に質問状に対する回答が得られなかった。もっとも、a 社については、B 氏へのヒアリングを実施しており、その際に上表の金額について概ね違和感はないとの回答を得ている。 なお、上表の金額については客観的な裏付けは得られていないものの、以下の理由により、更なる検証は難しいと考える。 (1) デジタルフォレンジック調査において顕出事項がないこと 本スキームの中心的な関与者である AZ 氏、AY 氏及び廣澤氏のヒアリングによれば、本件に関する現場施工業者とのやりとり及びアイ・テック内部の関与者間でのやりとりは全て口頭又は手書きのメモで行っており、メールや LINE 等の証跡が残るようなツールを利用していないとのことである。 当委員会は、関与者の業務用パソコンや携帯電話端末等に対するデジタルフォレン – 17 – ジック調査を実施したが、上表の金額についての客観的な裏付けとなるデータ等を含め、本件の証跡となり得るものは顕出されなかった。 (2) 取引履歴との突合検証において顕出事項がないこと 当委員会は、AZ 氏及び廣澤氏から、両氏が保有している銀行口座の調査対象期間における取引履歴の開示を受けるとともに、当該取引履歴のうち、20 万円以上の入金についてはその原資に関する説明を求めた。しかしながら、現場施工業者からのキックバックの受領及びその後のアイ・テック内部における配分は全て現金で行われ、キックバックを受けた金銭の保管についても主として各人の自宅の金庫や会社のデスク等で行われていたとのことであり、両氏の銀行口座の取引履歴において、キックバックに関連すると思われる入金は確認できなかった。 また、AZ 氏からは、上表における各年の過剰支払額の支払時期を月単位で可能な限り特定した資料の提出も受けた。当委員会は、かかる資料の正確性を検証するため、アイ・テックに対して工事管理システムから上表記載の各現場施工業者に対する各月の支払データを抽出させ、支払の金額及び時期の観点から齟齬が見受けられないかの検証を依頼し、その結果について一応の整合性がみられることを確認したが、上表と同様、更なる検証は困難と考える。 6. キックバックの使途 AZ 氏及び廣澤氏が受領したキックバックの使途は、以下のとおりである。もっとも、上述のとおり、AZ 氏及び廣澤氏はキックバックとして受領した金銭を銀行口座で管理していなかったため、取引履歴の検証によって、キックバックの使途に関しても特段認定できる事実は見受けられなかった。そのため、キックバックの使途についても、客観的な裏付けはなく、当事者のヒアリングに依拠せざるを得なかった。 (1) AZ 氏 AZ 氏によれば、AZ 氏が受領したキックバックの使途は、下表のとおりである。 (単位:千円) 暦年 キックバック額 接待交際 物品購入 商品券 営業部員 AY 氏 私的費用 2014 14,000 11,300 2015 14,000 11,400 2016 30,700 20,700 2017 31,800 21,800 2018 40,400 28,400 500 500 500 500 500 500 500 500 500 500 – – 4,000 4,000 4,000 – – – – – 1,700 1,600 5,000 5,000 7,000 – 18 – 暦年 キックバック額 接待交際 物品購入 商品券 営業部員 AY 氏 私的費用 2019 19,600 9,500 1,840 4,000 – 4,260 2020 15,600 2021 5,200 – – 1,040 4,000 5,000 5,560 – – 2,000 3,200 – – – 総額 171,300 103,100 2,500 5,380 20,000 7,000 33,320 ① 「接待交際」は、正規の接待交際費として会社に申請しなかった接待費用(ゼネコンを接待するために利用した高級クラブの飲食費等)やゼネコンに対し謝礼という名目で渡していた現金等である。 ② 「物品購入」は、ゼネコンへの贈答用の家電やパソコン等の購入費用である。 ③ 「商品券」は、ゼネコンへの贈答用の商品券の購入費用である。 ④ 「営業部員」は、営業部員が支出した高級クラブの飲食費や海外でのゴルフ費用等の費用を補填する目的で、AZ 氏が営業部員 4 名に渡していた現金である。なお、当該営業部員 4 名は、AZ 氏から授受された金銭が現場施工業者への工事費用の過剰支払及びキックバックの受領によって捻出されたものとは認識していなかった。 ⑤ 「AY 氏」は、東京支社に対する広島国税局による調査を発端として AY 氏が休職したことに伴い、AY 氏の生活費として、AZ 氏が AY 氏に渡していた現金である。もっとも、AY 氏によると、AY 氏が AZ 氏から受領した現金は、総額 300 万円から400 万円程度とのことであり、AZ 氏の認識とは齟齬が見受けられる。 ⑥ 「私的費用」は、キックバック額から①乃至⑤の合計額を控除した残額であり、当該残額については自宅の金庫で保管され、その一部につき AZ 氏個人の生活費等に費消された。 (2) 廣澤氏 廣澤氏によれば、廣澤氏が受領したキックバック額の多くは、ゼネコンや建築関係のコンサルタントを接待するために利用した高級クラブの飲食費、タクシー代及び海外ゴルフ費用等に支出され、また、その一部は、個人的な飲食費やゴルフ費用にも費消された。 – 19 – 第3 その他の不正な金銭授受 本調査の過程で、本件以外に、AY 氏及び営業部の AW 氏が取引先から個人的に金銭を受け取っていたことが判明した。これらの金銭授受に関して、以下に概要を記載する。 1. a 社 B 氏から AY 氏に対する金銭授受 AY 氏は、以下のとおり a 社の B 氏から個人的に金銭を受け取っていた。当該金銭授受は、後記(2)及び(3)記載のとおり、結果として本件の過剰支払額がその原資の一部となっていたものの、AY 氏から当該金銭授受を依頼したものではなく、また、AY 氏が当該原資について認識していたわけでもないため、本スキームの中で行われていたものとは評価できない。 (1) 金銭授受の期間及び内容 2014 年頃から 2019 年 4 月頃までの間、AY 氏は、B 氏から、毎月 40 万円に加えて、200 万円を年間 2 回(後述するように、現場代理人への賞与に充てる目的であった。)、合計で年間 880 万円程の金銭を個人的に受領していた。 (2) 金銭授受の経緯及び使途 当該金銭授受は、B 氏が、現場の仕事を円滑に進めるためには、建築現場を統括する AY 氏が部下に飲食代等を援助し懇親を図ることにより、良好な人間関係を形成する必要があると考え、同氏の個人的な判断により行っていたものであり、AY 氏から金銭を要求したことは一切なかった。 AY 氏は、B 氏から受け取った金銭の中から、工事課に所属する現場代理人 4 名に対して 1 回当たり 5~20 万円程度を年 2 回、その他の工事課の従業員 1 名及び工務課の従業員 1 名に対して 1 回当たり 5~20 万円程度を年 1~3 回程度渡していた。 アイ・テックにおいては、2018 年 6 月まで現場代理人に対する賞与制度が導入されておらず、AY 氏が現場代理人らに対して金銭を渡したのは、賞与に代わるものという趣旨であった。そのため、アイ・テックが現場代理人に対する賞与制度を導入した 2018 年 6 月以降は、B 氏から AY 氏に対する現場代理人の賞与名目での年間 400万円(200 万円を 2 回)の金銭授受はなくなり、それに伴い AY 氏から現場代理人への金銭の授受も行われなくなった。 (3) 金銭の原資 B 氏が AY 氏に授受した金銭の原資の一部には、本スキームにより a 社がアイ・テックから工事費用の過剰支払を受けた金銭が充てられていた。もっとも、AY 氏は当該金銭の原資に関する認識を有していなかった。 2. ファブリケーターから AW 氏に対するキックバック – 20 – 本調査において、AW 氏が、アイ・テックの仕入先であるファブリケーターの f 社及び g社の協力の下、鋼材代金の水増し又は架空発注を行い、アイ・テックから両社に支払われた鋼材費用の中からキックバックを受領していたことが判明した。 (1) AW 氏 AW 氏は、2002 年にアイ・テックに入社し、ア

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